*[日本のフォーク・ロック] 辻村マリナ / 夜をくぐり抜けるために(Panyanya-M Records / 2018)
移転前の吉祥寺のディスクユニオンの新譜コーナーで見つけた1枚。カードに書かれていた「アナログレコーディング」「60~70年代」「ブルーズ」「フォーク」というキーワードとクリス・クリストオファスンの” Help Me Make It Through the Night”を思わせるタイトル、ジャケ写の媚びを売らない自我に惹かれて購入。一聴しただけで、「間違いない」と判るホンモノのシンガーソングライターの力作だった。
2018年リリースの本作『夜をくぐり抜けるために』は辻村マリナのデビュー作。2019年にはセカンドアルバム『今夜は月がまるいから』をリリースしている。セカンドは探しているけれど、まだ出会えていない。
そう、ひとつ驚いたことは、ここ最近改めて自伝『キープオン!』を読み直し、作品を聴き直していた日本の“ラリパッパ・ビートニク”(『Folk Roots, New Routes フォークのルーツへ、新しいルートで』のディスクレビューにそう書いちゃいました…)南正人の2020年の新作『ON THE ROAD AGAIN VOL.1』に辻村マリナがコーラスで参加していたこと。南正人のビートには日本的な文脈に決して回収されないグルーヴがあるのだけれど、辻村マリナの音楽にもそれを感じた次第。タイやラオスのフェスにも出演しているという辻村と伝説の放浪歌手との相性に疑問はない。
『夜をくぐり抜けるために』はシンプルな歌とアコギ、ブルースハープにそこはかとないエレキとドラムス、パーカッションが加わるプロダクション。とてもナチュラルでまっすぐな言葉が突き刺さってくる。「ポケットの中で握りしめる ありきたりの真っ赤なブルー 搔き集めて歌にでもする でもブルースが歌えない」…洋邦の狭間である種の最適解を見つけ出したかに見える筒美京平さんが亡くなった時にも考えたけれど、ブルースが歌えないというブルースなのかもと受け止めた。”誰かのふるさと” 、”夏の小唄”、”広場に生える木”…ゆったりとしたバラードに得も言われぬ魅力がある。英米そして日本のフォーク・ミュージックの意匠を借りつつも、気負いや作為のないハッとするようなメロディと詩を紡げるシンガーはいなかったように思う。国や資本主義に飲み込まれる人々のあきらめに対する違和感を描いて見せた「仕方ない」のような普遍的なスケールをもった歌もある。ダウン・トゥー・アースな「おのれの歌や言葉」を歌い、探す彼女の旅はこれからも続いていくのだろう。