*[日本のフォーク・ロック] I guess / I guess You know(BYTZ RECORDS / 2021)
今年1月に発売されたばかりのI guessのセカンド・アルバム『I guess You know』。60分を超える珠玉の11曲、大充実の力作をリピートしているところ。
I guess(http://bytzweb.com/iguess.html)はギタリスト・シンガー・作詞作曲家・アレンジャー、そしてBYTZ(http://bytzweb.com/record_top.html)を主宰するレーベルオーナー・グラフィックデザイナーと多彩な才能を誇る橋本はじめと、DRI: MOONの超絶ドラマー清水智子からなるユニット。2016年にはファースト・アルバム『GARANCE』をリリースしている。
橋本はじめは東京藝術大学出身のメンバーからなるバンドBILLIKEN(http://bytz-aditl.jugem.jp/?eid=77) を1982年に結成し、EASTWEST決勝でシニア部門優秀賞を受賞。1989年には久保田真琴(夕焼け楽団~サンディー&ザ・サンセッツ)プロデュース、ニューヨーク・レコーディングの唯一作『BILLIKEN』(MIDI RECORD)を残した(サンディーや1月に惜しくも亡くなった日倉士歳朗がゲスト参加している)。
以後、友部正人、加奈崎芳太郎のサポートを経て、ひづめつかさ、飯田あきらとQ/Cを結成、2001年には閉館間際の渋谷ジァンジァンにて加奈崎芳太郎の相棒を務めた『古井戸2000』がFFAより音盤化されている。私自身、そのライブの熱気を目の当たりにし、生ギター二本とうねる様なボーカルをぶつけ合う生成りのステージ、そして橋本作の新曲”幸せな街”にとことん魅了され、サイケデリックなギターサウンドと歌心が絶妙に調和したQ/Cのライブに足を運ぶようになった(名曲「それは僕だ」をぜひみんなに聴かせたい)。その後、バンド「件(KUDAN)」を経て、清水智子をパートナーに結成されたのがこのI guessということになる。
『I guess You know』を手に取りまず驚かされたのは、そのパッケージ。橋本自らがデザインした、イラスト・英訳詞を併記した48頁に及ぶA5版ブックレット。
「風を切ってぶっ飛んでく フィル・マンザネラのファイアーバード」
(”I guess you know”)
「いつまでも終わらない歌は あなたから聴いたあの歌 煙突が川面に揺れる 手を繋ぎ歩いた道」(”いつまでも終わらない歌”)
「僕らの立てた計画が 物干し竿で揺れている」(”ブラン”)
詞を目でじっくり眺め、音楽を聴く相乗効果により喚起されるイマジネーションがある。極めつけは映画のサウンドトラックのようなインストゥルメンタル”9号室(掌のある部屋)”。不可思議な読後感を残す短編小説を味わい聴くその音楽は実に新鮮に思えた。コスパにかまけてケーハクになり果てたサブスク時代の音楽聴取に新たな可能性を付け加える試みかもしれない。
松田健とDRI: MOONをゲストに迎えたフォーキーなタバコ賛歌「スパ・スパ」を除き、ギター・バンジョー・マンドリンと様々な弦楽器をメインに演奏する橋本と、シンセ・エレピ・オルガン・クラヴィネットとこれまた様々な鍵盤楽器、そしてパーカッションを巧みに操る清水の二人で、コーラスを含めて濃密な多重録音サウンドを構築。ハードなエレクトリック・ギターのリフに導かれる”幻の人”や”ゴーギャンのジャングル”はぜひライブでも聴いてみたい。心にぽっかりと空いたまんまの穴ぼこ、そしてぐにゃぐにゃしたイビツな感情のサムシング…それらを歌に昇華させた橋本のソングライティングは今作でも冴え渡っている。