*[コラム] 懐かしのレコファン
新しい中古レコ屋、というのはなんだかんだ今どき珍しいけれど、昨年11月に武蔵小金井にレコファンができると聞いた時は驚いた。日本最大のフロア面積を誇る旗艦店だった渋谷店の閉店直後。渋谷店は広さや賃料を思うと、コロナ禍で海外からのお客さんも含めて減ったことも大きいのだろう。その閉店セール後の売れ残り在庫の一部が丸ごと武蔵小金井のドンキホーテのフロアの一部に入った。どうせ郊外から渋谷に買いに行ってる人がほとんどだったわけだから、それがベストな収まり方のような。私が高校から大学にかけて、レコファンは輸入盤CDの販売で全盛期だったから思い入れも深い。アマゾン以前の輸入盤新譜CDはほぼ高田馬場、池袋、新宿、吉祥寺、あとは下北沢のレコファンで買っていた。その店舗はいま全部潰れてしまった。パタパタ倒せる独特の棚に収められた中古CDが当時メインだったけれど、レコードもそこそこあって、1950円以上の高額盤は盤もキレイ、アメ盤は450円くらいだったけれど今見るとオリジナルも結構あったりして。アメリカン・ロックの売れ線の基本盤は結構そこで揃えた。あと、100円盤に掘り出し物がカナリあった。買ったあと、レコードにじかに貼られた値段のシールを剥がすテクニックも身につけたし(笑)店にいると時間を忘れるぐらい楽しかった。
で、先日は2度目のレコファン武蔵小金井店へ。いやほんと在庫墓場のようなスケール感。ちょっと久々に聴きたいなと思っていたCDは全部仕切りまでありまして、揃いました。60~90年代の全ミュージシャンを取り上げたような仕切りがマニアックすぎますね。アマゾンでも在庫切れになってそうな1990年前後の微妙なやつ、シェールのマイケル・ボルトンとかダイアン・ウォーレン、ジョン・リンド、ピーター・アッシャーなんかがプロデュースした1989年の『Heart Of Stone』とか、オアシスのノエル・ギャラガーが多大なる影響を受けた(というか曲作りのヒントを丸々頂戴した)UKロックバンド、リアル・ピープル(オアシスのファーストにコーラス参加している)とか、この辺の時代のCDって、ヘタに売れてる分売っても価値が付かないから、ブックオフとかですら、もはや余り見かけない。その辺をお探しの場合はぜひ(笑)図書館のように揃ってます。
レコードで感動したのは、100円盤のコーナーにブルーグラス・アライアンス(The Bluegrass Alliance)1975年の『Kentucky Blue』が。コレ、ブルーグラスのローカル盤にしか見えないけれど、クラプトンはじめギタリストも一目置くカントリー・シンガー、ギタリストのヴィンス・ギルが10代で加入し、実質初めて世に出たグループ。
ヴィンス・ギルはその後リッキー・スキャッグスやジェリー・ダグラスとのブーン・クリークにも参加。そしてピュア・プレイリー・リーグ、ソロでヒットを連発し、グレン・フライ死後のイーグルスにも加入することになった天才だ。他にも伝説的なフォーク・シンガー、ユタ・フィリップスのPhiloから1973年にリリースしたセカンド『Good Though』(コレは唸るほど素晴らしかった!)とか、カナダのシンガー・ソングライター、レイ・マテリック1979年の『Fever In Rio』もあった。レイ・マテリックの盤でギターを弾き、エンジニア・ミックスを務めているDan Lanoisは後にボブ・ディラン、ロビー・ロバートソン、U2などを手掛けるダニエル・ラノア。あとはB.J.トーマスの昔よくCDで聴いていた1989年作、『Midnight Minute』。アナログもあったのね、という。スティーブ・ドーフとカーペンターズの作詞家ジョン・ベティスがプロデュースに加わった、シカゴ・バラード的雰囲気の作品。
あとはカルトなシンガー・ソングライター、ジョン・オトウェイ&ワイルド・ウィリー・バレットの1977年の英国ロックのエッセンスを詰め込んだ同名ファースト(ピート・タウンゼンドがプロデュース参加)、ドン・プレストン&ザ・サウスのA&M1969年の『Hot Air Through A Straw From』は米オリジナル白プロモが。これらが一様に550~750円という良心的な価格。あと、ベンチャーズのノーキー・エドワーズのソロ3枚目『King Of Guitars』は東芝の日本盤がいい感じだった!”幸せの黄色いリボン”をギターだけで聴くと、ギルバート・オサリバン”Alone Again (Naturally)”のメロディを一部拝借していることがよりよくわかる。そのオサリバンの”Get Down”もあるし、ドゥービー・ブラザーズの”Long Train Runnin’”はイナタいファンキーさが堪らない(結構ビートにノレている)。ディープ・パープルの”Highway Star”を演るヴェンチャーズ、てな風情の驚きのトラックも!
懐かしかったのは、レコードのシール付きビニール外袋…閉じた上でさらにセロテープで止めてあるんですね。以前はコレをレジの店員さんがペーパーナイフみたいなやつでピーッと剥がして、中の盗難防止タグを取っていたような。レコードが今以上に貴重だった時代の名残のような仕草を久々に思い出した。