*[SSW] Jimmy Webb / Slipcover (BMG / 2019)
全く話題になる気配がないけれど(笑)、ジミー・ウェッブの新作。20年前、あの日のジミー・ウェッブ・ファンは今どこで、何をしているのだろう? 2000年代に入って再びシンガー・ソングライター・モードに入っていたから、完全な自作による新作歌モノを期待していたけれど、1曲を除き自作ではない70年代SSW/ロックをピアノ・インストで聴かせると知って当初面食らった。それでも、ジミーのソロ・アルバムで聴ける、まるで歌っているかのような味わいのあるピアノを思い浮かべつつ、ちょっと期待もしていたのだけれど…これがマコトに素晴らしかった! 冒頭ストーンズ『Sticky Fingers』の”Moonlight Miles”からして、どこを切り取ってもジミー節としか言いようが無い、エモーショナルかつヒューマン・ビートで綴られた繊細なピアノ・サウンド。不覚にも心を揺さぶられてしまった。2曲目は”God Only Knows”でしょう…ジミーがデビューしたプロジェクト、ストロベリー・チルドレンのシングル”Love Years Coming”にも多大な影響を与えている曲。ここまで来ると、歌など必要ないと思えてくる。
そもそもジミーがランディ・ニューマン邸でピアノを披露したところ、ピアノ・ソロでアルバムを作ることをランディに勧められたのだという。彼の見立ては正しかった。そのランディ・ニューマンの”Marie”、ウォーレン・ジヴォン”Accidentally Like A Martyr”、ジョニ・ミッチェル”A Case Of You”、ビリー・ジョエル”Lullabye(Goodnight, My Angel)”、レフト・バンク(マイケル・ブラウン)”Pretty Ballerina”、スティーヴィー・ワンダー”All In Love Is Fair”、ビートルズ(ポール・マッカートニー)”The Long And Winding Road”、サイモン&ガーファンクル(ポール・サイモン)”Old Friends”…ジミーが60~70年代にしのぎを削ってきた戦友のようなミュージシャンたちの楽曲を心をこめて演奏する。ジミー自身の名曲”The Moon Is A Harsh Mistress”もとりわけ素晴らしかった。
自身によるライナーではレッキング・クルーのラリー・ネクテル(ジミーが手がけたフィフス・ディメンションのレコーディングに参加している)やフロイド・クレイマーのピアノ・プレイへの賛辞を惜しまない。「音楽のロマンスは60年代には生きていた」…という指摘は、現代のポピュラー音楽への批評とあきらめを含んでいるけれど、それには同意するほか無い。初のピアノ・ソロ・アルバムは本当の自分だ、と言わんばかりに、ジャケットはジミー自身によるイラストだった。