いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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 芹澤廣明の世界

markrock2016-07-18



先日チェッカーズの初期作品を唐突にレコードでまとめて手に入れて。初期3枚、『絶対チェッカーズ!!』『もっと!チェッカーズ1984年)『毎日!!チェッカーズ(1985年)は抜群に良かった。「白いマリンウォッチプレゼント」とかいうチラシが入っていて、コレは時代を感じるなぁ。中身はというと、結構音作りがコントロールされていて、作品としてのまとまりがある。1980年代と言えばツッパリ・フィーヴァーもありつつの、フィフティーズのロケンロール回帰現象があったわけだけれど。チェッカーズも今なら、そうしたエイティーズ・ロックンロール・リヴァイヴァルのひとつとして楽しむのが良い。”ギザギザハートの子守歌”とか”涙のリクエスト”とか、今聴くと笑っちゃうくらいなんだけど、一日中鼻歌を歌ってしまうくらいの強烈なインパクトがあることは否めない。そんな彼らの船出にあたり、作曲・サウンドプロデュースを担当していたのが芹澤廣明その人。じきにチェッカーズのメンバーのオリジナル志向とぶつかって、ケンカ別れしちゃうのかな。芹澤さんからすれば、オレのお陰で売れたのに、独り立ちしようだなんて…って感じだったんだろう。アイドルのデビューから自立のプロセスで結構あるある、なお話。いまだに藤井フミヤが”ギザギザハートの子守歌”を歌えないのもそうした理由だとかなんとか。

芹澤廣明といえば、清須邦義も在籍していたGSのザ・バロン出身。よく考えてみるとチェッカーズ提供曲にしても、代表曲の一つである岩崎良美の”タッチ”にしてもGS風味が感じ取れる。その後ステージ101のオーディションに合格し、メンバーとなってキャリアは進展。NHKの番組だったステージ101は、メンバーによる多くのアルバムをリリースしていて、日本のソフトロックと呼べるそのクオリティが、今も音楽ファンに注目されている。メンバーには清須邦義、塩見大治郎、ピコの愛称で知られる天才・樋口康雄、後にアニソンで有名になる串田アキラ(後に芹澤作曲のキン肉マンのテーマ”キン肉マンGo Fight!”を歌う)、牧みゆきなどがいた。


その中で人気を博したのが後の芹澤廣明(河内広明)と若子内悦郎。二人は「ワカとヒロ」(この頃は河内広明名義)のデュオとしてもレコードを出している。1972年に東芝EMIエキスプレス・レーベルからリリースされたヤング101は東海林修アレンジで70年代の洋楽カバーに少々のオリジナルを含めたソフトロック好盤。1973年に東芝EMIからリリースされた『聞き違い』はオリジナルとカバーからなるニューロックなテイストの名盤だ。

その後芹澤廣と改名して、サザンがデビューする頃のビクターinvitationから2枚のソロ『Changes』(1978年)、『ジャパニーズ・センチメンタル』(1979年)をリリース。甲高くてひんやりとしたボーカルに、GSロック風から歌謡曲風、フォーク風、カントリー・ロック風…と器用なソングライティングが光っている。見た目もフィフティーズのリーゼント、キザでワルぶった感じだけど、音作りも含めて独自の美学をもっている。六文銭の及川恒平が多くの作詞を手がけているのも注目すべき。『ジャパニーズ・センチメンタル』の方はAORっぽいプロダクションになっている。

でもこの2枚、私が入手したのもサンプル盤だけれど、おそらく余り売れなかったはず。その後は裏方に転じ、1982年に作詞家の売野雅勇と組んだ中森明菜の”少女A”が大ヒットして人気作家コンビとなった。そしてそのコンビで曲を作ったチェッカーズがドカンとバカ売れし、時代の寵児となったわけだ。芹澤のワルっぽさ、不良っぽさの系譜が回り回って、時代の趨勢とフィットしていく様が今にしてよくわかる。



ちなみに”タッチ”の主題歌が大ヒットした岩崎良美のアルバム『half time』も芹澤プロダクション。あとは『タッチ』『ナイン』の挿入歌では芹澤自身が何曲も歌っている。誰かコンピレーション作ってくれないかな。あと、2001年には芹澤自身による”タッチ”のセルフカバーもあった。

あと芹澤廣明名義のソロでは1987年にポニー・キャニオンから『Million Stars』をリリース。チェッカーズもの、”Song for U.S.A.”、”雨に消えたソフィア”、” ジュリアに傷心(ハートブレイク)”のセルフカバーが素晴らしい。情念の入り込まないクールなボーカルに独特の個性を感じてしまう。シンガー・ソングライターとしての作品をもっと聴いてみたかった。