いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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Eric Clapton / I Still Do (Bushbranch/Surdog / 2016)

markrock2016-07-17



今年の忘れ得ぬ来日公演に行った流れで紹介しようと思い、張り切って予約までして入手したものの、日々増殖するレコードに埋もれて、やっと封を切ったという…いやはや、いけません。ジェフ・ベックの新譜を聴いて、クラプトンのことを思い出した次第。そう言えばジェフの方、個人的には抜群にロックで良かった!とはいえ色々賛否もあるようだけれど、もはや此処まで来ると、今回は駄目だとかあーだこーだ言ってる暇ないですからね。もう70過ぎてますから。赤ちゃんみたいなもので「笑った!」とか「立った!」とかそういう次元で感動しないといけません(失礼!)。結局自分の抱いている全盛期のイメージに被りつつ、ちょっと現代的だったりしないと満足しないファンというのは一定数いるものだけど。でもとうに70も過ぎて、たぶん本人はそんなことを期待されても困る…という感じなのではないかな。

クラプトンもまさにそんな感じで。いつになくリラックスしてマイ・ウェイを貫いている。2枚組LPで入手したけれど(ダウンロード・カード同封)、通常LPの33回転ではなく、シングル盤の45回転仕様になっており、一瞬トレースして焦った。A〜D面にそれぞれ3曲ずつ12曲。音を良くしようと言う意図がわかる。冒頭A面の3曲、リロイ・カーの”Alabama Woman Blues”、JJケイルの”Can’t Let You Do It”、90年代的なコンテンポラリー・アコースティック・ポップ路線の”I Will Be There”(ポール・ブレイディのカバー)からして、全てのファンを満足させる作り。今までのスタイルを自然に並べた感じで。ちなみに”I Will Be There”には、アコギ&ボーカルで共演する”Angelo Misterioso(アンジェロ・ミステリオーソ)”なる人物がクレジットされていて、かつて”Badge”を共作したジョージ・ハリスンの変名” L'Angelo Misterioso”を類推させるネーミングだけに、ジョージの未発表音源なのでは?なんていう憶測も流れたけれど。実際は日本公演において同曲で共演したエド・シーランであるようだ。何でもエドのレコード会社がその仕上がりを気に入らなかったようだ。エドはエリックをレスペクトしているから、変名で参加したのだろう。

ちなみにバンドはアンディ・フェアウェザー・ロウやクリス・ステイントン、ポール・キャラック、ダーク・パウエルといった先日の来日公演メンバーにサイモン・クライミーらも加わって。来日公演でマンドリンアコーディオンを従来のロック・サウンドに加えて、異常な目立ち方をしていたダークだから、本作に加わってそのサウンドが再現されていると期待したけれど、そこは肩すかしをくらった。そこまで目立っておらず残念。あの来日公演のブルーグラスを思わせるクラプトン・サウンドは結構貴重だったかも。

その他、自作の”Catch The Blues”が良い雰囲気だったり、スキップ・ジェイムス!やロバジョンを挟んで、ザ・バンドのようにも聴こえるボブ・ディランの”I Dreamed I Saw St.Augustine”があったり(コレが個人的にはベストかな)。そして”I’ll Be Alright”、コレは聴いていて気が付いたけれど、公民権運動のアンセムだった”We Shall Overcome”の原曲ですね…ちなみにプロデュースは泣く子も黙る名匠グリン・ジョンズということで。ジャケットの写真からアナログな機材を使ってある意味贅沢にレコーディングされていることがわかる。歌詞は本人の意向で掲載無し。現代は情報過多な時代じゃないですか、その一方、人々は情報量そのものに価値を見出さなくなってきている。「それが何?調べれば今すぐわかることだけど。」っていう。これが昨今絶賛進行中の情報革命というパラダイム・シフトにあたるわけで。従来情報量を売りにしていた部分も多々あった音楽評論を、誰も有り難がらなくなってきた現状も、その辺に理由があると思っている。だけど、今回のクラプトンみたいに、歌詞はなし、ゲスト参加も変名で秘密、みたいなやり方もちょっと面白いなと思ったり。ちょっとググってみてもわからない、そんな時にこそ想像力の翼が羽ばたき出す…なーんて。