先日高田馬場タイム閉店の記事を書いたのだけれど、いつになく多くの反響があって驚いている。ずっと注目している奈良の貴重なレコード屋さん、ジャンゴレコードの店長さんにもツイッターで取り上げていただけたり。老舗の閉店を惜しむ声と共に、レコード文化を愛する人達が多くいることに心強さも感じたものだ。そんなことを三鷹パレードの店長さん(高田馬場タイムで修業された後にご自身のお店を開業された)に報告しようとお店を訪ねると、既に記事のコピーを届けて下さったお客さんがいたとのこと。なんだかそんな人の繋がりも嬉しく思ったり。店長さんがおっしゃった「CDもよく考えるとレコードと同じでアナログな文化になりましたね」という言葉も印象的だった。確かにプラケースを開けてCDプレイヤーに投入する、という愛おしい一手間がアナログレコードとほぼ変わらない。こんなことに気付けるのも今という時代だからこそなのかもしれない。
さて、今日は佐藤勝の1972年の自演盤を。最近たまたま見つけたのだけれど、存在すら知らなかった。1928年北海道生まれの作曲家、佐藤勝と言えば、映画音楽の世界では数え切れない程の作品を手がけ、その名がとどろいている。何しろ黒澤明(『用心棒』はアカデミー賞作曲賞にノミネート)や岡本喜八作品の常連となっている人。『幸福の黄色いハンカチ』『太陽の季節』『狂った果実』『独立愚連隊西へ』『赤ひげ』『日本のいちばん長い日』『日本沈没』『華麗なる一族』『あゝ野麦峠』『吉原炎上』『塀の中の懲りない面々』『釣りバカ日誌4』『雨あがる』…と作品をあげればキリがない位。
そんな彼がシンガー・ソングライターとしてTRIOから1972年にリリースした珍盤がその名も『佐藤勝』。「唄の無い世代に訴える40代のシンガーソングライター!」なんていう帯が目を惹くけれど、当時44歳ですか。大分渋い雰囲気が漂っている。
提供曲の自演では石原裕次郎”狂った果実”、ザ・ブルーベル・シンガーズ”昭和ブルース”、 ザ・ブロードサイド・フォー”若者たち”が白眉。多くの楽曲を共作した伊藤アキラや山上路夫、五木寛之の作品は当時としては若い世代にアピールする部分があったはず。個人的には”学生街の喫茶店”や”岬めぐり””翼をください”のヒットでフォーク・ファンにも縁深い山上路夫さんのヒューマンな詩にグッと来るモノがあった。ちなみにシングルにはブルースな歌詞の"馬車うまのように"(B面は"若者たち")が切られたみたい。
もちろん全てが佐藤勝の作・編曲となっているけれども、サウンド的にはラッパがむせび泣くジャズ風味に日本的な俗謡・演歌調が混ざったような、60年代までの昭和映画の風情そのものの雰囲気。ボーカルも上手いとは言いがたいけれど、味のある感じ。いずみたくの自演盤なんかもそうだった。ザ・ブロードサイド・フォー版の”若者たち”(藤田敏雄の詩)は1966年の同名ドラマの主題歌でしっとりとしたモダン・フォーク調のアレンジだったのに対し、佐藤の自演はちょっとアップテンポで若々しいソフトロック調なのが面白い。しかしそれにしてもザ・ブロードサイド・フォーのリーダー、黒澤久雄は黒澤明の息子だったわけで、その一世一代の大ヒット曲が親父の映画を手がけた作曲家だったということにも、今にして初めて気が付いた。