いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

f:id:markrock:20190212213710j:image
いしうらまさゆき へのお便り、ライブ・原稿のご依頼等はこちらへ↓
markfolky@yahoo.co.jp

[NEW!!]2023年12月22日(金)に大岡山のライブハウス、GOODSTOCK TOKYO グッドストック トーキョーで行われる、夜のアナログレコード鑑賞会 野口淳コレクションに、元CBSソニーでポール・サイモンの『ひとりごと』を担当されたディレクター磯田秀人さんとともにゲスト出演します。
ココをクリック
「アナログ鑑賞会〜サイモンとガーファンクル特集〜」 日時:12月22日(金) 19時開演、21時終了予定 入場料:予約2,000円 当日2000円(ドリンク代別) ゲスト:石浦昌之 磯田秀人 場所:大岡山 グッドストック東京 (東急目黒線大岡山駅から徒歩6分) 内容:①トム&ジェリー時代のレコード    ②S&G前のポールとアートのソロ·レコード    ③サイモンとガーファンクル時代のレコード(USプロモ盤を中心に)    ④S&G解散後、70年代のソロ·レコード ※それ以外にもレアな音源を用意しております。
[NEW!!]2023年11月25日(土)に『ディスカヴァー・はっぴいえんど』の発売を記念して、芽瑠璃堂music connection at KAWAGOE vol.5 『日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』を語る。 と題したイベントをやります。
f:id:markrock:20231119123246j:image
2023年9月19日、9月26日にTHE ALFEE坂崎幸之助さんの『「坂崎さんの番組」という番組』「坂崎音楽堂」で、『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』を2週にわたって特集して頂きました。
1週目 ココをクリック
2週目 ココをクリック
f:id:markrock:20230904182855j:image
坂崎さんから
「聞きなれたS&Gがカバーしていた曲の本家、オリジナルの音源特集でしたが、なかなか興味深い回でしたね。やはりビートルズ同様に彼らもカバー曲が多かったと思うと、人の曲を演奏したり歌ったりすることも大事なのだと再確認です。」
[NEW!!]2023年10月27日発売、『ディスカヴァー・はっぴいえんど: 日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』の監修・解説、ノエル・ハリスン『ノエル・ハリスン + コラージュ』の解説を寄稿しました。
購入はココをクリック
f:id:markrock:20230926181532j:image
購入はココをクリック
f:id:markrock:20231022131852j:image
2023年9月29日発売、『風に吹かれて:ルーツ・オブ・ジャパニーズ・フォーク』の監修・解説、ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー『ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー』の解説を寄稿しました。
購入はココをクリック
f:id:markrock:20231022130416j:image

f:id:markrock:20231022130609j:image
購入はココをクリック
f:id:markrock:20231022130403j:image
2023年7月28日発売、リッチー・ヘヴンス『ミックスド・バッグ』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
購入はココをクリック
f:id:markrock:20230918110205j:image
2023年8月26日(土)に『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』の発売を記念して、西荻窪の素敵なお店「MJG」でイベントをやります。
f:id:markrock:20230813101635j:image
2023年6月30日発売、ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクルの監修・解説、ジャッキー・デシャノン『ブレイキン・イット・アップ・ザ・ビートルズ・ツアー!』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
購入はココをクリック
f:id:markrock:20230918104848j:image
購入はココをクリック
f:id:markrock:20230918105526j:image
2023年3月31日発売、スコッティ・ムーア『ザ・ギター・ザット・チェンジド・ザ・ワールド』、オールデイズ音庫『あの音にこの職人1:スコッティ・ムーア編』、ザ・キャッツ『キャッツ・アズ・キャッツ・キャン』の3枚の解説を寄稿しました。
購入はココをクリック
f:id:markrock:20230408155636j:image
f:id:markrock:20230403220702j:image
f:id:markrock:20230403220638j:image
2023年2月24日発売、ビッグ・ボッパー『シャンティリー・レース』、フィル・フィリップス『シー・オブ・ラブ:ベスト・オブ・アーリー・イヤーズ』、チャド・アンド・ジェレミー『遠くの海岸 + キャベツと王様』の3枚の解説を寄稿しました。
購入はココをクリック
f:id:markrock:20230129183945j:image
2022年12月23日発売、バディ・ホリー・アンド・ザ・クリケッツ 『ザ・バディ・ホリー・ストーリー』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
購入はココをクリック
f:id:markrock:20230403220543j:image

 Wayne Carson / Life Lines ( Monument Z30906 / 1972 )

markrock2015-06-03



シンガー・ソングライターの快楽。何故自演ソングライターのレコードに魅力を感じるのか。そもそも1970年代、ジェイムス・テイラーキャロル・キングといったシンガー・ソングライターに日の目が当たったのは、ベトナムで疲れた時代の空気に適合しただとか、ビートルズ解散で一つの時代が終わったこととか、社会へのプロテストを歌うことよりパーソナルな心情を歌うことの方が新しくなったこととか、ヒッピーイズムの着地点として、ダウン・トゥ・アースな身の丈に合った生活を歌い上げるのに自演スタイルが実にナチュラルだったこととか、色々ある。でも、個人的にシンガー・ソングライターの快楽を最も強く感じられるのは、作詞家・作曲家・アレンジャー・プロデューサー・スタジオ・ミュージシャン…の分業で成り立っていた音楽業界(いわゆるティン・パン・アレー的な、ブリル・ビルディング・システム)の裏方ミュージシャンの自演盤なのだ。そこには、パーソナルな表現と商業主義の絶妙なバランスや、本当に表現したかったことと、できなかったことの落差の妙なんてものも味わえたり。まあ、リスナーのロマンティシズム、というか勝手に想像たくましくして物語を作っている部分も相当あるんですが。「苦節10年…やっと自分のレコード、出せました」みたいな。またしても思いつきですが、そんなレコードを気の向くままに取り上げてみようかな。

ウェイン・カーソンの『Life Lines』はどうだろう。1972年の盤。アレックス・チルトン率いるThe Box Topsに”The Letter”、”Neon Rainbow”、”Soul Deep”を書いた人。それらの自演をもちろん収録している。フレッド・フォスターのプロデュースで、南部の好盤を多く世に出したモニュメントからのリリースだ。久々に聴いてみると、田舎ブルー・アイド・ソウルといった風情。とても良い。カントリーとソウルが溶け合ったような。クレジットは無いけれど、エレクトリック・ギターの生々しい音なんかもう最高で。



裏ジャケのコメントはB.J.トーマス。「もし彼が歯医者だったとしても、ウェイン・カーソンはぼくの友達だったろう」なんて面白いことを書いている。実はB.J.トーマスが登場するのも分かる。エンジニアにはアメリカン・スタジオのチップス・モーマンが加わっているし、B.J.に提供した”No Love At All”や”A Table For Two For One” ”(どちらもジョニー・クリストファーとの共作)の自演も含んでいる。さらにThe Box Topsの、”The Letter ”に次ぐヒットとなった小粋な”Neon Rainbow”もどことなくB.J.風なのだ。そう、そもそもThe Box Tops版”The Letter ”と ”Neon Rainbow”のプロデューサーはアメリカン・スタジオのダン・ペンだったのであって。



声が裏返ったりもするけれど、バリー・マンか、はたまたトレイド・マーティンか、というような“Laurel Canyon”も最高だ。他にもバリー・マンバカラック、ジミー・ウェッブ…意識にあったかどうか、そんなテイストがシンクロする箇所も聴きとれる。

ウェイン・カーソン・トンプソンはコロラド州デンバーの生まれ。両親もカントリー・ミュージシャンだった。成功を求めて1962年にナッシュビルに移住し、”知りたくないの(I Really Don't Want to Know)”(日本では菅原洋一が歌ったのが面白い)のヒットで知られるカントリー歌手、エディ・アーノルドに提供した”Somebody Like Me”が1966年に全米No.1になったのが才能を認められたきっかけ。デモを聴いたエディから電話で”好きな曲だけど…もう一つヴァースが必要だな”と言われて、”3つ目のヴァースはこんな感じですよ!”と即興で歌って聴かせた…この必死さの伝わるエピソードもなんだか良いですね。The Box Topsで特大ヒットを記録した”The Letter”はアメリカ南部の音に心酔したジョー・コッカーの脳天をも直撃したはずだし、マーク・ジェイムス、ジョニー・クリストファーと共作した名曲”Always On My Mind” はエルヴィス・プレスリーもレコーディングし、1982年にはウィリー・ネルソンの歌(チップス・モーマンのプロデュース)でグラミー2冠を達成した。ウェイン・カーソンは現在、殆どリタイア気味のようだけれど、2002年には自演盤『Writer』もセルフ・リリースし、”Always On My Mind”も含む代表曲を演っている。ちなみにモニュメントからの本盤以前にもMGMから60年代半ば過ぎにシングルリリースがある。また、モニュメントからのシングルカットにはアルバム未収録音源が含まれていたりもする。

http://www.waynecarsonmusic.com/about.htm