いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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 Wayne Carson / Life Lines ( Monument Z30906 / 1972 )

markrock2015-06-03



シンガー・ソングライターの快楽。何故自演ソングライターのレコードに魅力を感じるのか。そもそも1970年代、ジェイムス・テイラーキャロル・キングといったシンガー・ソングライターに日の目が当たったのは、ベトナムで疲れた時代の空気に適合しただとか、ビートルズ解散で一つの時代が終わったこととか、社会へのプロテストを歌うことよりパーソナルな心情を歌うことの方が新しくなったこととか、ヒッピーイズムの着地点として、ダウン・トゥ・アースな身の丈に合った生活を歌い上げるのに自演スタイルが実にナチュラルだったこととか、色々ある。でも、個人的にシンガー・ソングライターの快楽を最も強く感じられるのは、作詞家・作曲家・アレンジャー・プロデューサー・スタジオ・ミュージシャン…の分業で成り立っていた音楽業界(いわゆるティン・パン・アレー的な、ブリル・ビルディング・システム)の裏方ミュージシャンの自演盤なのだ。そこには、パーソナルな表現と商業主義の絶妙なバランスや、本当に表現したかったことと、できなかったことの落差の妙なんてものも味わえたり。まあ、リスナーのロマンティシズム、というか勝手に想像たくましくして物語を作っている部分も相当あるんですが。「苦節10年…やっと自分のレコード、出せました」みたいな。またしても思いつきですが、そんなレコードを気の向くままに取り上げてみようかな。

ウェイン・カーソンの『Life Lines』はどうだろう。1972年の盤。アレックス・チルトン率いるThe Box Topsに”The Letter”、”Neon Rainbow”、”Soul Deep”を書いた人。それらの自演をもちろん収録している。フレッド・フォスターのプロデュースで、南部の好盤を多く世に出したモニュメントからのリリースだ。久々に聴いてみると、田舎ブルー・アイド・ソウルといった風情。とても良い。カントリーとソウルが溶け合ったような。クレジットは無いけれど、エレクトリック・ギターの生々しい音なんかもう最高で。



裏ジャケのコメントはB.J.トーマス。「もし彼が歯医者だったとしても、ウェイン・カーソンはぼくの友達だったろう」なんて面白いことを書いている。実はB.J.トーマスが登場するのも分かる。エンジニアにはアメリカン・スタジオのチップス・モーマンが加わっているし、B.J.に提供した”No Love At All”や”A Table For Two For One” ”(どちらもジョニー・クリストファーとの共作)の自演も含んでいる。さらにThe Box Topsの、”The Letter ”に次ぐヒットとなった小粋な”Neon Rainbow”もどことなくB.J.風なのだ。そう、そもそもThe Box Tops版”The Letter ”と ”Neon Rainbow”のプロデューサーはアメリカン・スタジオのダン・ペンだったのであって。



声が裏返ったりもするけれど、バリー・マンか、はたまたトレイド・マーティンか、というような“Laurel Canyon”も最高だ。他にもバリー・マンバカラック、ジミー・ウェッブ…意識にあったかどうか、そんなテイストがシンクロする箇所も聴きとれる。

ウェイン・カーソン・トンプソンはコロラド州デンバーの生まれ。両親もカントリー・ミュージシャンだった。成功を求めて1962年にナッシュビルに移住し、”知りたくないの(I Really Don't Want to Know)”(日本では菅原洋一が歌ったのが面白い)のヒットで知られるカントリー歌手、エディ・アーノルドに提供した”Somebody Like Me”が1966年に全米No.1になったのが才能を認められたきっかけ。デモを聴いたエディから電話で”好きな曲だけど…もう一つヴァースが必要だな”と言われて、”3つ目のヴァースはこんな感じですよ!”と即興で歌って聴かせた…この必死さの伝わるエピソードもなんだか良いですね。The Box Topsで特大ヒットを記録した”The Letter”はアメリカ南部の音に心酔したジョー・コッカーの脳天をも直撃したはずだし、マーク・ジェイムス、ジョニー・クリストファーと共作した名曲”Always On My Mind” はエルヴィス・プレスリーもレコーディングし、1982年にはウィリー・ネルソンの歌(チップス・モーマンのプロデュース)でグラミー2冠を達成した。ウェイン・カーソンは現在、殆どリタイア気味のようだけれど、2002年には自演盤『Writer』もセルフ・リリースし、”Always On My Mind”も含む代表曲を演っている。ちなみにモニュメントからの本盤以前にもMGMから60年代半ば過ぎにシングルリリースがある。また、モニュメントからのシングルカットにはアルバム未収録音源が含まれていたりもする。

http://www.waynecarsonmusic.com/about.htm