64年の秋にウェスト・ヴァージニアを離れた
若い男が燃える情熱を抱いて
僕は歌手だ、それもとびきりだと言われてきた
多くの人がそうだったように 数多の金の壺を探し求める
ウェスト・ヴァージニア・スーパースター
歌い、ギターを奏でて
夢を掴み、ビンにしまうんだ
おおウェスト・ヴァージニア・スーパースター
(“West Virginia Superstar”)
4歳でアーチェリー事故で左眼を失明し、その後右の視力も失ったのだというターリー・リチャーズ。先の詩はエピックからの4作目『West Virginia Superstar』より。先日彼の1965年のファーストLPを初めて聴いた。1941年生まれ、50年代のロックンロール・エラから活躍し(ファイヴ・パールズというグループのメンバーだったらしい)、1959年よりシングルを発表。NYのグリニッジ・ビレッジで最初の成功を得た。このLPは20th Centuryからのリリース。全編のアレンジはゲイリー・マクファーランドのディレクションで、ビレッジらしいジャズ/フォーク・タッチのアルバムに仕上がっている。ターリーのソウルフルなボーカルはハイトーンも頭抜けていて、ビレッジの中でもやはり一目置かれるものがあったのではないだろうか。ライブ録音と思しき”Look Down That Lonesome Road”はゲイリーのヴィブラフォンにボブ・グリロの生々しいエレキ・ギターも入って、フォーク・ロックの胎動を思わせるとても良い雰囲気。トゥーツ・シールマンズのブルースハープが入った”I Need To Fall In Love”も同様のライブ録音で最高。他には定番”St.James Infirmary”やアイズリー・ブラザーズの”Shout”、チャック・ベリーの”Too Much Monkey Business”(ソウルフルなフォーク・ロックの体でこれまた良い)、そしてバカラックの”Any Day Now”のカバーなんかもあって。
久々に聴いてみようと盤を探したけれど、セクションのメンバーが参加した3作目『Expressions』が見つからない。キャロル・キングやディラン(2016年4月、祝・来日!)のカバーも入っていて最高のアルバムだった。これ辺りでターリーを知ったのだったか、いや、それともフリートウッド・マック関連盤として5作目『Therfu』を買ったのが最初だったか。『Therfu』は高田馬場の今はなきレコード屋の店頭で100円もしなかった、という記憶がある。結構売れたからだと思うけれど、当時安かった。ミック・フリートウッドに再発見されて、そのバックアップでリリースしたこの1979年盤にはベン・E・キングの”Stand By Me”のマイケル・マクドナルド風リフによるカバーと共に、最大のヒット”You Might Need Somebody”(曲はトム・スノウ)が含まれている。ジェイムス・テイラー&J.D.サウザーの”Her Town Too”なんかと併せて聴きたくなるような地味な良さ。10年ぶりくらいに聴いたけれど、こちらは一瞬ターリー・リチャーズを聴いていることを忘れてしまうような、構築されたAORの世界。"I'm Comin' Back Home (With A Little Bit Of Luck)"はブラコン的味付けのバラードでスゴク良い!見直してしまいました。
あと、『Expressions』と同じワーナーからリリースされた2作目『Turley Richards』は2曲を除いてアル・ゴーゴニのアレンジで、ゴードン・ライトフットとボブ・ディランのカバー、エドウィン・ホーキンス・アレンジのゴスペルと自作曲が収められている。とても良いレコードだと思う。A面ラストの”Then I’ll Go Away”という曲が良い。自作に白人のカバーを交えつつ、ソウル・ルーツも出そうと黒っぽいカバーを足すというのが彼のレコードの常套パターンだったけれど、その雑多さがつかみ所の無さになってしまったような気もする。カバーだけでシンガーに徹する、とか、自作曲を弾き語る、とか、そんなターリーも聴いてみたかったような。
と思いきや、近年は弾き語りのライブなども演っている模様。バディ・ホリーやサム・クックなんかも歌っていて。74歳で今も元気、というのは何より嬉しい。
http://www.turleyrichards.com/