/ ギリシャについて書かれた本( Columbia / 1973 )
関東は再び雪ですね。東京の大動脈である中央線も止まってしまっていて。そんなこんなでレコードを聴くぐらいしかありません。
コレは凄い!と思わず唸ってしまった再発盤を。セッション・ベーシストとして著名な岡沢章のソウルフルな喉をフィーチャーしたヴォーカル名作『ギリシャについて書かれた本+3』。和モノもついにこんな所まで来たか、という。正直レコ屋を巡っていてこの盤の現物に出会ったことがない。それだけ当時は抹殺されてしまった盤なのだろうけれど、今の耳で聴くとその先見性に驚かされる。タイトルも面白いですね。「ギリシャについて書かれた本」って。ギリシャ神話なのかなんなのか良く判らない。流石はタイトル曲作詞及川恒平のセンスです。バッキングは岡沢自身が参加していた稲垣次郎とソウル・メディアということで、今回の「Dig Deep Columbia」なる再発ラインナップの中にも稲垣次郎関連盤が含まれていた。
さて岡沢章だけれど、ジャズ、フォーク、ソウルを股にかけ、弟の岡沢茂ともども日本を代表するセッション・ベーシストとして知られている人。山下達郎、吉田美奈子、さだまさし、長渕剛、吉田拓郎(『LIVE’73』は名演!!)…ミュージシャンのクレジットを確認するのが趣味、なんていう人にとっては至る所で目にするプレイヤーだと思う。そのキャリアの出発点はというと、ニュー・ロックの定評高いバンド、THE M(エム)に遡るのだった。このエムはつくづく凄いメンバーのバンドだった。後にイエローを結成し、泉谷しげるのサポートをした時期もあった垂水良道・孝道兄弟を中心に、岡沢章や浅野孝巳(チャコとヘルス・エンジェル〜ゴダイゴ)、さらには外道を結成する加納秀人も3ヶ月間在籍していたという。残された音源を聴いてみると、生の洋楽をいかに再現できるか、が重要だった時代に、頭抜けた力量を持っていたことが一発で判る。近年再結成もありました。
さて、でも何より本盤のオドロキは岡沢章自身のソウルフルな声。男・和田アキ子か!という位の。実は以前、吉田美奈子の追っかけをしていた方から、凄く歌の上手いベーシストがいる!という話を聴いていて、ライブDVDを見せてもらったら岡沢だった、ということがあった。あの吉田を前にして怖じ気づくことなく、堂々たるボーカルを披露しているその姿が只者とは思えなかったけれど、歌モノでも十二分に勝負できる人だったと言うことだ。
さて本作、神田川な時代とは思えない音。時代を反映した四畳半フォークっぽい曲も1曲くらいあったけれど(”比叡おろし”な松岡正剛−小室等コンビの”ひとつの言葉”は ど・フォークかと思いきや、前田憲男のアレンジの妙でプロコル・ハルムみたい)、コシのあるファンキーなベースと、サム・ムーアかマーヴィン・ゲイか!という位の黒いボーカルが載るだけで、全く別世界へ。オリジナルでは六文銭の及川恒平の詩に前田憲男が作曲・編曲を手がけた”朝の都会には乾いた花がよく似合う”が実に素晴らしく、和ソウルとして再評価されるのも頷ける世界。上田正樹のサウス以前のソロデビュー作でシングル・オンリーの”金色の太陽が燃える朝に”(詩はあの故やなせたかし)なんかもそんな同時代の隠れたソウル歌謡だった。安井かずみ・森田公一コンビの”影”ってのも、なかなか。森田公一は”あの鐘を鳴らすのはあなた”にせよ、フィリーなどソウル・フィールを日本歌謡に持ち込んだ功績アリ。あとはクニ河内や、アレンジャーとして有名になる愚の瀬尾一三の楽曲があったり、”What's Going On”、”Alone Again (Naturally)”なんていうカバーも。前者を当時こんなニュアンスで歌えた歌手はいなかったのでは?後者のギルバート・オサリバンとソウル、ってのもなかなか。ジャズでエスター・フィリップスのカバーが1972年にありましたが。
あとはボーナスが素晴らしく、ソウル・メディアと共演したソウル・ディーヴァ、サミーと共演したアルバム『Let It Be』からの“遙かなる影〜ウォーク・オン・バイ〜恋の面影”(バカラック・メドレー)、”ユア・ソング”(エルトン・ジョン)これぞニュー・ソウルなキャロル・キングの“スマック・ウォーター・ジャック”の3曲が。
調べていたら、現在アメリカ在住のサミーさんの新録がYouTubeにアップされていました。ハンパないですね!
Sayonara Bye Bye by Sammy
http://www.youtube.com/watch?v=ban-lRRMorw