エリック・カズ(http://www.erickaz.com/)の41年ぶりのソロ新作。オリジナル・タイトルはシンプルに『Eric Kaz』。41年って…私の人生はそれにすら満たないし。凄まじいこと。日本のSSWものなどで有名な輸入盤店「プー横町の家」(ロギンス&メッシーナですね)のレーベル、スライス・オブ・ライフ・レコード(http://www.h2.dion.ne.jp/~slice/index.html)からのリリースだ。
正直失礼ながら心配だったのはジャケット。リリースインフォが出た時点で、そりゃないでしょ…と思ってしまいましたよ。テキトーにペイントソフトで書いたようなエリックの横顔。お店で裏ジャケを見ると、これまた携帯で撮ったみたいな写真で。ベテランSSWの自主盤にはよくあるパターンなんですが…
でも中身を聴いて一安心。”Just Wanna Be Home”からして、素晴らしい。ピアノ弾き語りを基調とする美しいアルバムに仕上がっていた。しかも、70年代初頭の2作『If You're Lonely』『Cul-De-Sac』の方がある意味老成していたのでは?と思うほどの若々しさ。2002年の来日公演の際の、鼻に掛かった、ブルーズをルーツにした歌声を想像していたので。ちなみにその来日公演は素晴らしかった。ピアノとマーティンのオール・マホガニーのギター(当時マーティンではラッカー塗装の廉価シリーズが出始めた頃。金ピカ趣味を持ち合わせていない人なんだ、と思いました。)を持ち替えて。観客の興奮と、極東の小国で自分の音楽を待ってくれているお客さんがいるんだ、というご本人の感動が化学変化を起こしたような、ミラクルな空間だった。終演後のサイン会がまた良くて、1人1人丁寧に話をしてくれた。私はピュア・プレイリー・リーグ(再編リトル・フィートでもボーカル&ギターで参加した)のクレイグ・フラーとの共演アルバムを持参したところ、すっくと立ち上がり「彼はぼくのソウルメイトなんだ!」ととっても喜んで、握手を求められた。そんな記憶が残っている。
さて、キャリアの詳細はCD付属の萩原健太さんのライナーがカンペキなので、そちらを参照していただくとして、割合本作がシンガー・ソングライター・アルバムだ、と語られていることに対して一言、言っておきたい。弾き語りのトラックは自演盤用に仕立てたトラックかなと思ったけれど、打ち込みトラックなどは明らかに、ソングライター・デモのプロダクションだと思われる。80年代からウェンディ・ウォルドマンなどとのコンビで、ポップ・ロック、カントリー・フィールドで相当の売れっ子になっていたエリックのことだ。こんなデモを普段から作っているのだろう。一時期エリックやウェンディ、あるいはビル・ラバウンティの曲が入っているカントリーのアルバム(たいていシングル向けでアルバムに1曲)ばかりをつぶさに集めていたこともあったな。だから聴き手のロマンを壊すつもりはないけれど、41年ぶり、というには、現役感がありすぎたりもするわけで。メロディも90年代以降のカントリーやポップ・フィールドの王道系バラードの匂い。70年代のカズ曲の特徴だったゴスペルっぽさはあまりないかな。ただし、引き込まれます。”Sanctuary”には”Love Has No Pride”の残り香も一寸あるような…佳曲揃いで一気に聴ける7曲31分。今度はまた、愛して止まないエリックの古いレコードを聴いてみよう。ラストの”Old Love Letter”の歌詞のように、捨てられないレコードがあるのです。
プロデュース&アレンジはニック・ジェイムソン!ウッド・ストック音楽ファンには涙する名前…トラウム兄弟と活動し、マッド・エイカーズにも参加したことのあったエリック。かつてのウッドストック・コネクションがいまもあることが、当たり前だけれど、嬉しい。