高田渡の息子、高田漣による高田渡カバー集。高田渡のベスト盤『イキテル・ソング〜オールタイム・ベスト〜』、そしてデビュー前の日記『マイ・フレンド〜高田渡青春日記 1966−1969』に合わせてリリースしようという新生ベルウッド・レコードからの提案だったようだけれど、ファンにとっては待ってました、とでもいうような企画ではないかな。晩年の高田渡のステージでは息子との息のあった共演が楽しめた。実はなかなかないことだったんじゃないかな。その時に比べると、円熟したソロ活動に高橋幸宏、原田知世、高野寛らとのpupaや細野晴臣のバンドなど活動の幅を広げ、日本を代表するマルチ弦楽器奏者に成長した印象だけれど、もう一度父親の音楽と向き合うというのも感慨深いものがあったのではないだろうか。
高田渡の古巣ベルウッドからのリリース。装丁もいいですね。ベルウッド三部作を思い出してしまう。ちょうど私が中学生の時に所沢のレコード屋で『ごあいさつ』を購入。まだ3枚くらいしかCDを持ってない時代ですから、どれだけ聴いたことか(実は買った瞬間は理解を超えていて、ちょっと後悔したんです、だから悔しくて何回も聴いて…)、今ではどの曲もギターで弾けてしまう。最近になってLPで『ごあいさつ』を買い直したら、はっぴいえんどとの共演曲の鈴木茂のギターがエグくてびっくり。今の再発盤はリマスターされているのかな?少なくとも初めて買ったCDの『ごあいさつ』とは全然違う音だった。
それから三鷹に引っ越しをして、学校から帰ると老舗の焼鳥屋いせやの立ち飲みの一角で自転車に寄っかかって高田渡が寝ている、という現状を目の当たりにして。それはそれで衝撃を受けたものです。漣氏もライナーで葬式での「高田渡を神格化しないで欲しい。酔って昼頃にろれつの回らないまま意味不明な電話をかけてくる、そんな高田渡であった事を忘れないで下さい。」という言葉を引用しているけれど…ご家族は大変だったと思います。
まあそうは言え、漣氏が音楽で父の音楽と向き合っていることにじんと来るものがある。シンプルながらもモダンな味付けで趣向を凝らした多彩なアレンジの15曲。漣氏の声はどんな声なんだろう、と思ったけれど、とても木訥としていて、穏やかで、とても良い。飲んだくれの声ではないけれど、そんな誠実さが彼らしいような。大好きな”仕事さがし”が1曲目なのも嬉しいし、アナログテープに録音するというマニアックなレコーディング手法も良い。やっぱりフォークはクリックなんか使っちゃいけませんね。生のヒューマン・ビートで録らないと。細野晴臣のバンドの伊賀航と伊藤大地と共演した”自転車に乗って”も最高で。はっぴいえんど の曲を細野さんと現在演っている彼らと、かつての はっぴいえんど と高田渡の共演曲を演る。これほどオリジナルに敬意を表したカバーはないんじゃないかな。”ろっかばいまいべいびい”に感化されたというイントロの”ホントはみんな”も収録。”コーヒーブルース”には京都イノダに初めて行った時の感激を思い出す。高田渡の残した楽器がこうしてまた奏でられていることにも深い感動を覚える。
吉祥寺の街も高田渡が亡くなってから、だいぶん変わりました。いせやをはじめ。古いオーナーの中には、渡さんがいる限りは守り続けようとしていた吉祥寺があったと聞いている。そんな吉祥寺も今はない。なぜか心のざわつく休日だけれど、やっとしっくり来る音楽に出会えました。