いしうらまさゆき の 愛すべき音楽よ。

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いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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【シンガー・ソングライター いしうらまさゆき としての作品】
1stアルバム『蒼い蜜柑』(KAZEレーベル、2011年9月15日発売)
2ndアルバム『愛すべき音楽よ』(MASH RECORDS、2012年11月1日発売)
3rdアルバム『語りえぬものについては咆哮しなければならない』(MASH RECORDS[VIVID SOUND]、2014年7月20日発売)
4thアルバム『作りかけのうた』(MASH RECORDS[ULTRA-VYBE]、2015年9月16日発売)

・東京都三鷹市立上連雀保育園の楽曲「上連音頭」「かみれんサンバ」制作(作曲・歌唱、2015年)
瀬戸口修「Bolero」[コーラス参加](ブルースターミュージック・ジャパン、2009年6月5日発売)

【音楽雑文家 いしうらまさゆき / 石浦昌之 としての仕事】
<本>
和久井光司責任編集『サイモン&ガーファンクル完全版』[分担執筆](河出書房新社、2024年7月29日発売)
加奈崎芳太郎『キッス・オブ・ライフ――ジャパニーズ・ポップスの50年を囁く』[編集・全アルバム解説](明月堂書店、2019年10月1日発売)
『URCレコード読本』[コラム、アルバム・ガイド分担執筆](シンコーミュージック、2020年8月20日発売)
清水祐也編『Folk Roots, New Routes フォークのルーツへ、新しいルートで』[アルバム・ガイド分担執筆](シンコーミュージック、2017年7月9日発売)

<オールデイズ レコードCD>
『アベンチュール・デ・ヴァカンス ・ドゥ(Aventure de Vacances duex : Guide To Hosono’s Favorite Songs)』監修・選曲・解説(2枚組)(2024年7月26日発売)
『シティポップ・トライアングル・フロム・ レディース ー翼の向こう側にー(CITYPOP TRIANGLE from LADIES -’60 radio station-)』監修・選曲・解説(2枚組)(2024年5月31日発売)
『ディスカヴァー・はっぴいえんど: 日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶(DISCOVER HAPPY END ーTHEIR ROOTS ー)』監修・選曲・解説(2枚組)(2023年10月27日発売)
※ JFNCのラジオ番組 THE ALFEE 坂崎幸之助さんによる『「坂崎さんの番組」という番組』「坂崎音楽堂」で特集(2023年4月9日)
『風に吹かれて:ルーツ・オブ・ジャパニーズ・フォーク(Blowin’ in the Wind/The Roots Of Japanese Folk)』監修・選曲・解説(2枚組)2023年9月29日発売
『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル(The Roots Of Simon & Garfunkel)』監修・選曲・解説(2枚組)(2023年6月30日発売)
※ JFNCのラジオ番組 THE ALFEE 坂崎幸之助さんによる『「坂崎さんの番組」という番組』「坂崎音楽堂」で2週にわたって特集(2023年9月19日・26日)
※ 発売記念イベント『サイモンとガーファンクルにまつわる簡単で散漫な解説』(2023年8月26日・西荻窪MJG・企画・ナビゲーター:清水祐也)
スコッティ・ムーア(SCOTTY MOORE)『ザ・ギター・ザット・チェンジド・ザ・ワールド(The Guitar That Changed The World)』企画・解説(2023年3月31日発売)
ロニー・マック(LONNIE MACK )『ワム・オブ・ザット・メンフィス・マン!(The Wham Of That Memphis Man!)』企画・解説LONNIE MACK The Wham Of That Memphis Man!(2023年12月22日発売)
『ジム・ウェッブ・ソングブック:アーリー・イヤーズ~フェニックスへの道(HOW TO GET TO PHOENIX-JIM WEBB SONGBOOK 1964-67)』解説(2024年6月28日発売)
ジム・ウェッブ(JIM WEBB)『ジム・ウェッブ・シングス・ジム・ウェッブ(Jim Webb Sings Jim Webb)』解説(2024年6月28日発売)
モビー・グレープ(MOBY GRAPE)『ワウ(Wow)』解説(2024年3月29日発売)
ジェントル・ソウル(GENTLE SOUL)『ザ・ジェントル・ソウル(The Gentle Soul)』解説(2024年3月29日発売)
セイリブ・ピープル(THE CEYLEIB PEOPLE)『タニエット(Tanyet)』解説(2024年2月23日発売)
グリーンウッド・カウンティ・シンガーズ(GREENWOOD COUNTY SINGERS)『ハヴ・ユー・ハード+ティア・ダウン・ザ・ウォールズ(HAVE YOU HEARD + TEAR DOWN THE WALLS)』解説 (2023年12月22日発売)
ゴリウォッグス(GOLLIWOGS)『プレ・CCR ハヴ・ユー・エヴァー...?(Pre-CCR~Have You Ever...?~)』解説(2023年12月22日発売)
ノエル・ハリスン(NOEL HARRISON)『ノエル・ハリスン + コラージュ(Noel Harrison + Collage)』解説(2023年10月27日発売)
ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー(BIG BROTHER & THE HOLDING COMPANY)『ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー(Big Brother & The Holding Company)』解説(2023年9月29日発売)
リッチー・ヘヴンス(RICHIE HAVENS)『ミックスド・バッグ(Mixed Bag)』解説(2023年7月28日発売)
ジャッキー・デシャノン(JACKIE DESHANNON)『ブレイキン・イット・アップ・ザ・ビートルズ・ツアー!(Breakin’ It Up On The Beatles Tour!+1963-64 singles)』解説(2023年6月30日発売)
キャッツ(CATS)『キャッツ・アズ・キャッツ・キャン(Cats As Cats Can)』解説(2023年3月31日発売)
オールデイズ音庫『あの音にこの職人1:スコッティ・ムーア編』(2023年3月31日発売)
チャド・アンド・ジェレミー(CHAD & JEREMY)『遠い渚 + キャベツと王様(Distant Shores + Of Cabbages And Kings)』解説(2023年2月24日発売)
フィル・フィリップス(PHIL PHILLIPS)『シー・オブ・ラブ:ベスト・オブ・アーリー・イヤーズ(Sea Of Love : Best Of Early Years)』解説(2023年2月24日発売)
ビッグ・ボッパー(BIG BOPPER)『シャンティリー・レース(Chantilly Lace)』解説(2023年2月24日発売)
バディ・ホリー・アンド・ザ・クリケッツ(BUDDY HOLLY AND THE CRICKETS)『ザ・バディ・ホリー・ストーリー(The Buddy Holly Story)』解説(2022年12月23日発売)

【高校倫理 等に関する仕事】
『哲学するタネ――高校倫理が教える70章【東洋思想編】』[単著](明月堂書店、2018年10月10日発売)
『哲学するタネ――高校倫理が教える70章【西洋思想編①】』[単著](明月堂書店、2020年10月20日発売)
『哲学するタネ――高校倫理が教える70章【西洋思想編②】』[単著](明月堂書店、2020年10月20日発売)
井野瀬久美惠編『つなぐ世界史 3 近現代/SDGsの歴史的文脈を探る』[分担執筆](清水書院、2023年8月28日発売)
東京都高等学校「倫理」「公共」研究会『新科目「公共」「公共の扉」を生かした13主題の授業事例集』[編集委員・分担執筆](清水書院、2023年8月25日発売)
東京都高等学校公民科「倫理」「現代社会」研究会『新科目「公共」「公共の扉」をひらく 授業事例集』[分担執筆](清水書院、2018年11月15日)
高校倫理研究会『高校 倫理が好きだ!――現代を生きるヒント』[分担執筆](清水書院、2016年3月30日発売)

【いしうらまさゆきの「倫理」ラジオ with Roma Kumakura】
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 ソニー・カーティスを探せ!

markrock2015-02-15



年末年始の関心事はソニー・カーティスだった。



ロックンローラーが憧れるロック・アイコン。というとまずはエルヴィスだけれど、生まれ持ったセックス・アピールが備わっていないのなら、バディ・ホリーになろうとするものだ。黒縁メガネにフェンダーストラトキャスターウォーリーを探せ、のウォーリーみたいな、スマートで知的なイメージ。メガネをかけてロックすることを初めて認めさせた人。エルヴィス・コステロという人は巧妙かつ欲張りだった。芸名はエルヴィス、見た目はホリー。日本のポップスの王道を歩むミュージシャンにも彼のスタイルを借りて音楽を表現しようとした佐野元春(セカンド・アルバムのタイトルはホリーの曲と同じ”Heart Beat”だった)や大滝詠一(ヒーカップ唱法の際立つ”Everyday”を”A面で恋をして”で蘇らせた)、それにコステロ経由の桜井和寿がいたけれど、それもそのはず。かのビートルズだって、ホリーのバック・バンドのクリケッツ(コオロギ)にあやかって、ビートルズ(カブト虫)と名付けられたのだったし、同じリバプールのキャバーンで活躍していたバンドに、その名もホリーズ、だっていたわけだし。

ドン・マクリーンがシングル盤の表裏で完結するという前代未聞の長編”アメリカン・パイ(パート1&パート2)”をリリースしたのが1971年。この曲の印象的なヴァースでは、バディ・ホリーが1959年、弱冠22歳にしてにビッグ・ボッパーやリッチー・ヴァレンスと共に飛行機事故で亡くなった日を「The day the music died.(音楽が死んだ日)」と表現していたのだった。幾通りにも解釈ができる不思議な曲だけれど、マクリーンは誰の人生にも訪れるイノセンスの喪失を、ビートルズ解散を迎え肥大化するロック産業と重ね合わせつつ、ベトナム戦争の泥沼化で疲弊し切った70年代初頭のアメリカの時代状況の中で無意識的に歌い上げようとしたのだと思う。マドンナはこの曲を21世紀が終わろうとする2000年に映画『2番目に幸せなこと』の挿入歌としてカバーした。その映画は60年代のカウンター・カルチャーを代表する作品真夜中のカーボーイでアカデミーを獲ったジョン・シュレシンジャー監督最後の作品となったし、翌2001年9月11日にアメリカは同時多発テロを経験し、ポピュラー音楽におけるアフロ・アメリカンの世紀(20世紀)が終焉(終演?)する序章と相成った。マドンナが予言者だったとは言わないけれど、表現者が時代の空気を読んでいることは確かだ。



話を戻そう。年末年始の関心事はソニー・カーティスだった。バディ・ホリーを聴く度、作曲クレジットがホリーでないと気付いて以来少しずつマネジャーのノーマン・ペティはじめクリケッツについて調べたり、CDやレコードを買ったりしてきたのだけれど、クリケッツの中でもグレン・D・ハーディンやジェリー・アリスンよりも、ソニー・カーティスに着目したのは、その時代を超えたメロディ・メイカーぶりと自演盤の多さだった。ソニーはホリーとは古くからの友人であり、初期のレコーディングにも参加。ホリーの死後にはクリケッツのギタリスト・ボーカリストとなった人。



バディ・ホリーとクリケッツはビートルズ以上にパワー・ポップのルーツだと思える。他のロックンローラーと比べてもブルーズ色が薄く、曲によっては黒人になろうとしていないような音にも思えたり。でも演奏はベース・ギター・ドラムスだから、ロックなビートが生まれる。白と黒のバランス。ビートルズもそこを意識的に受け継いだ。3コードでもセブンスを際立たせたブルーズ進行一辺倒ではなく、カントリー的な甘さがあったり、そこマイナー・コードを1つ入れてポップ・バラードをロック化させたりといった発明を加えた先駆も彼らだったように思える。グレアム・ナッシュが愛したのもそこだろう。そんな意味では、アメリカ的な黒人ルーツ色が薄れた2000年代以降のロック・ミュージック(ガラパゴス化したJポップも含めて)もエルヴィス的というよりホリー的なのだろうと思ったり。

さて、ソニー・カーティスの自演盤を幾つか取り出して聴いている。1937年テキサス生まれ。今は78歳。友人のバディ・ホリーも生きていたら今年で79歳だった。DOT傘下のVIVAから年にリリースされた『The 1st Of Sonny Curtis』は、ビートルズ人気の便乗盤のような1964年の『Beatle Hits Flamenco Style Guitar』に次ぐセカンド。本人的にはソングライター、シンガーとしての1stという意味合いをタイトルにこめたのだろう。既にクリケッツ名義の1960年盤『In Style With The Crickets』に収められていた”More Than I Can Say”(ジェリー・アリソンとの共作)と”I Fought The Law”が再演されており、新進ソングライターのショウケースのような仕様になっている。”More Than I Can Say”は1961年にボビー・ヴィー(クリケッツとの共演盤がある)が取り上げ、1980年にはレオ・セイヤーのカバーが再び全米2位に達した。”I Fought The Law”は『In Style With The Crickets』から5年経た1965年にテキサスのガレージ・バンド、ボビー・フラー・フォーが取り上げてやっと全米9位の特大ヒットになった曲。ボビー・フラー・フォーは二匹目のドジョウだろうか、ホリーの未発表曲”Love’s Made A Fool Of You”(こちらも『In Style With The Crickets』収録)を次のシングルに切っている。それが今度はロンドン・パンクの雄クラッシュが1979年に再び取り上げて、チャート・アクションはなかったものの、誰もが一度は耳にしたことのあるパンク・スタンダードに仕立て上げたのは有名だ…遡れば1960年に既にパンク的なこのギター・リフを完成させていたソニーの革新性に感動する。ちなみに『The 1st Of Sonny Curtis』は本来のデモに近いであろうアクースティックなヴァージョンで、譜割りも違い、パンク版を期待すると肩すかしを食らうかも。他にはエヴァリー・ブラザーズが取り上げた”Walk Right Back”の自演もアリ。これも良い曲だ。


あとはBarnabyから1972年にリリースされたThe Crickets単独名義の『Rockin’ 50’s ROCK & ROLL』はコオロギの絵がリアルすぎて不気味だけれど、”Peggy Sue”、”That’ll Be The Day”、”It’s So Easy”、”Everyday”等といったホリーの代表曲をソニー・カーティス(1曲だけジェリー・アリソン)のボーカルで再録音した好作。50年代懐古の新しいタイトル曲だけデラニー・ブラムレットのプロデュースになっているのも興味深い。ビートルズが1963年に書いたクリケッツへの賛辞も4人のサインと共に裏ジャケットに印刷されている。

ソニーは1970年代には幾つかのシングルをリリース。1979〜81年にエレクトラから『Sonny Curtis』『Love Is All Around』『Rollin’』という3枚のアルバムを再びリリースし、ソロ・アーティストとして返り咲く。1980年の『Love Is All Around』はひげを蓄えて無骨なカントリー・シンガー然としたソニーが”I Fought The Law”や”Walk Right Back”を再び歌う。”The Real Buddy Holly Story”に加え、ポール・サイモンのカバー”Fifty Ways To leave Your Lover”が含まれているのも注目したい。バックはThe Hitmen名義、ジョー・オズボーン、レジー・ヤング、ボビー・トンプソンの腕利き3人。

そして日本でも結構話題になった2004年のクリケッツのトリビュート作『The Crickets And Their Buddies』は素晴らしかった。ソニー・カーティス、ジェリー・アリソン、ジョー・B・モールディンという現クリケッツの面々に、上手すぎるアルバート・リーがギタリストとして加わった盤石なバッキング。そこにエリック・クラプトン、グレアム・ナッシュ、J.D.サウザー、ボビー・ヴィー、ジョニー・リヴァース、フィル・エヴァリー、ウェイロン・ジェニングス、ナンシー・グリフィス、ロドニー・クロウェル、ヴィンス・ニール…といった豪華かつ、ゆかりの&レスペクトする人々が客演する夢のような一枚。そうそう、ホリーのトリビュートではポール・マッカートニールー・リードなんかも参加した『Rave On』(2011年)も聴き応えがあった。

そして2007年には今のところCD形態でのソニーの最新リリースになるのかな、『Sonny Curtis』が出ている。これを入手したのが今年のはじめ。ソニーのキャリアを総括する15曲。よく曲目を見ていたら、コレ、エレクトラからの3作から抜粋されたベスト盤の趣き。”It’s Not Easy Being Fifteen”はデヴィッド・ゲイツの1994年作のタイトル曲”Love’s Always Seventeen”に少し似ている気がした。ちなみにこれは以下のソニーのHPから購入できた。送られてきた封筒の送り主のサインを見てびっくり。ソニー・カーティス本人が極東のリスナーにCDを1枚送っている姿を想像して微笑ましくもなった。

http://www.sonnycurtis.com/