いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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【書評掲載】
『情況』2018年秋号 田中里尚(文化学園大学准教授)「教えられぬことこそ語り続けなければならない―石浦昌之の実践について―」
『日本教育新聞』2019年3月18日 都筑 学(中央大学教授)「先哲から学ぶ人生の知恵」
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Bob Dylan / Shadows In The Night ( Columbia / 2015 )

markrock2015-02-20


楽しみにしていたディランの新譜。昨年のリリース情報と先行PV”Full Moon And Empty Arms”を耳にしてからずっと楽しみにしていたのだけれど、リーズナブルな輸入盤を取り寄せていたため、いまやっと届いて聴けた。早さばかりが持て囃される時代だけれど、色んな人の感想やレビューを読みつつ想像を膨らませてからこうして聴くのもなんだか良い。タイトルがまた陰影に富んでいる。Shadows In The Night(夜の影)なんてシビレますよね。ディランが好みそうな多様なイメージが膨らむタイトル。”Strangers in the night”っていうシナトラの代名詞がありましたが、ご存じの通りフランク・シナトラのキャピトル時代の作品を中心としたボーカル・アルバム。タイトルはシナトラの代名詞”Strangers in the night”とシナトラも歌っている”Shadows of your smile”をガッチャンコした”勝手にシンドバッド”状態かと思ったけれど、ディランが所属するコロンビア制作の1944年の映画に『Shadows in the night』があった。CBSラジオの人気プログラム、マックス・マーシン作のクライム・ドクター・シリーズを映画化したシリーズで、主演はシスコ・キッド役でアカデミーを獲ったこともあるワーナー・バクスター。役名はドクター・ロバート・オードウェイ。ロバート?ボブのこと?なーんて邪推も楽しい。でも、なんとなくちょび髭の雰囲気も近いように思えたり。邪推ですが。


フォークの神様がシナトラか、みたいなステロタイプ的反応や、ディランまでもがグレート・アメリカン・ソングブックの類を出したか、みたいなお決まりのレスポンスも予想通りあるけれど、ディランを追いかけてきたファンならさほど驚かされる部分はないでしょう。元々詩やメロディなんてパブリック・ドメインであって、その時代の表現者語り部の如く歌い継ぐべきものだと考えていた節がある。音楽出版ビジネスの観点からすると剽窃だなんだと騒がれるフォーク・ミュージックの価値観だ。そしてまた名作ラジオ・プログラム”Theme Time Radio Hour”でも聴けた芳醇なポピュラー・ミュージックの知識と愛情。博覧強記かと言って、意外とパーソナルな体験に記憶される盤やヴァージョンに執着していそうなのも愛おしい。本作の選曲やアレンジにもそうした感性が見て取れる。



そして、ディランは唄がヘタとかいまさら言ってる人もいるけれど、何を仰いますか、冒頭”I’m A Fool To Want You”。個人的には晩年のビリー・ホリデイ絶唱が忘れられない曲なんだけれど、正直近年のディランのタンが絡んだようなダミ声でカスタマイズされているんだろうと踏んで聴いていたところ…むむむ、巧い。この歌い口、そうそう簡単に歌えるものじゃない。丁寧にメロディの上下を辿って噛みしめるように歌うディラン。これには自画自賛していたなんて話もあるけれど、確かに今までにない巧さ。今作で取り上げている楽曲は下手に料理できないと思ったことは間違いない。定番”Autumn Leaves”なんかを聴いても、近年ロックの世界で取り上げたクラプトン版と比しても断然歌が上手い。ビックリしました。そうそう、”Autumn Leaves”の英語詩をつけたのはキャピトル・レコードの創設者で作詞家のジョニー・マーサーでした。彼が自作曲を歌うソロLP、最近手に入れたけれど結構良かった。ジャズ・スタンダードとなっているポピュラー・ソングは概して歌詞がやっぱり大切。『ジャズ詩大全』という日本語訳詩の名シリーズをよく参考にしているけれど、単なるラブ・ソングと思っても機知に富んでいて。当時の保守的なリスナーを直接的にぎょっとさせることのない、スリリングな言葉選び…そしてメロディとのコンビネーションが奇跡的にも思える。



さてさて話を戻すと、バンドはいつものツアー・バンド。スタジオ・ライブ形式でツルっと録ったなんてのも素晴らしい。未発表曲も例のごとく2倍以上あるみたいだけれど。エンジニア・ミックスは大御所アル・シュミット。チャーリー・セクストンもソロ・アーティストとしてより渋く、磨きが掛かっている。近作同様ウェスタン・スウィングを連想させるカントリー・コンボのスタイルだけれど、バラード中心の選曲的ゆえかさほどスウィング感は感じない。ペダル・スティールのドニー・ヘロンがサウンド的には重要な役割を担っていることは確かだ。ラストの”That Lucky Old Sun”みたいなカントリー〜ソウル・アーティストが好む楽曲になってくると、冒頭精一杯よそゆきのディランがいつも通りのディランに戻ってきたように思えたり。1985年のファーム・エイドでも披露したコレをラストにしているのもまた。



ジャケもシンプル。曲名、クレジットのみのボール紙一枚ですよ。有名曲の歌詞なんてわざわざ必要ないですね。むしろ耳を澄まして聴き込んでしまう。あ、でもケチらずLPで買えば良かったな…全編35分のヴィニール盤仕様+CD付だし。ジャケもディランらしい、スタンダード風の引用。レーベルはまんまブルーノート風で。でもジャケ裏のブルーの色合いがディランらしいですよね。昨年の30周年コンサートのリマスターのアートワークも同じような青。そうだ、ロック・ライターのポール・ウィリアムスの訳書ボブ・ディラン 瞬間の轍1 (1960‐1973)』の日本版ブックカバーもこんな色だったような。コレ、原書は表紙違うみたいなので偶然かな?ちなみにポール・ウィリアムスの最初の妻は金延『み空』幸子。ロック雑誌の草分けクロウダディを作った彼も2013年に亡くなっている。

昨年一年間、個人的にはジャズ/ポピュラー・ボーカル盤がツボに入ってドカ買いしていたんだけれど、春にこのディラン新譜の報を聴いたとき、気が合ったねーなんて勝手に思い込んで嬉しくなってしまった。レコードを集めていると、そんな風にミュージシャンの想いとシンクロすることが時折あって面白い。そう言えば、一昨年亡くなった大滝詠一の最後の公式レコーディング音源もシナトラ父娘のカバー”Something Stupid”(竹内まりやとのデュエット)だった。大滝さんも、もしも晩年シンガーとしてカムバックしたなら、シナトラ風情のクルーナー唱法でこんな音像で歌を作ってもしっくり来たような。名プレイヤー駒沢裕城のスティール・ギターをよく使っていたし。と思ったら、高田漣のスティール・ギターで歌う細野晴臣ウェスタン・スウィングともシンクロしてきたり。同時代のミュージシャンも潜在的に影響を受けているのだと思う。フォークの神様の時代から、昨年全セッションが日の目を見た『The Basement Tapes』にしたって、その同時代への多大な影響は計り知れない。