/ ZOOEY ( DaisyMusic / 2013 )
もちろん発売日に購入。インストゥルメンタルやデモ・トラックスを含むCDにレコーディング・ドキュメントやインタビューを含むDVDも入ったデラックス限定盤。ただ、まだ本編12曲をじっくり聴き込んでいて、そこから先へ進めない。でも、1曲1曲が耳に馴染んでいくまでのこんな時間を感じられるのは久しぶりかもしれない。昔、大好きなミュージシャンのCDを3000円の大枚をはたいて買って、ウキウキして家に帰って、ブックレットを見ながら1曲1曲口ずさんでいった、そんな記憶に繋がる久々の経験だ。
一言で言うと、耳を奪われるメロディと百戦錬磨のバンド・サウンドがとても心地良い、ベテランの本懐とも言えるポップ・アルバム。楽曲の完成度は前作『Coyote』に比類するもの。佐野元春というミュージシャンはここへ来て新たな絶頂期を迎えているのではないだろうか。NHKの好プログラムだった『ソングライターズ』でも拘り続けていた詩の一片一片が所々に胸に投げつけられてくる。とりわけ前半の疾走する3曲”世界は慈悲を待っている””虹をつかむ人””La Vita e Bella”は圧倒的だったかな。
「愛した人とさよならがあって」
「君が愛しい 理由はない」
もちろんどう考えても3.11以後の音楽だと言うことが出来るのが、音楽の同時代性と向き合ってきた佐野元春らしいと思う。それでも「虹をつかむまであともう少し」「言えることはたったひとつ この先へもっと」と呼びかけるメッセージは温かくも力強かった。とある亡くなったミュージシャンのニックネーム「ZOOEY(ゾーイ)」の語源「ZOE(ゾーエー)」は「いのち」を意味する言葉らしい。
COYOTE BANDの面々と作り上げた音は、もうそれだけで切り貼り打ち込みで乗り切る安価な現代のポピュラー・ミュージックに対する批評に成り得ている。モータウン、フィル・スペクター、ヤング・ラスカルズ…とブックレットには曲作りのヒントが色々書かれていたけれど、こんな風にロックの遺伝子を受け継ぐのが理想的だな、と思えてしまう。佐野さんもロックを継承することには相当意識的なのだろう。音楽への愛が詰まった佐野さんのラジオ・プログラムを聴いているようなリラックスした気分になれるレコード、なのはそういうわけなのだと思う。
気に入っている曲?沢山ありすぎて書けません。冒頭の3曲に加え、最高のリフ・ロック”ビートニクス”、”食事とベッド”をなにげなく、何度も何度もリピートしていたり。元春流”All Along The Watchtower”な感じの”ポーラスタア”も最高だし。
数年前、偶然に音楽ジャーナリストの長谷川博一さんとお会いした時、一番気になるアーティストを一人挙げるとしたら、と尋ねたら「佐野元春」との声が返ってきた。その意味がやっと今判りかけてきたところだ。素敵なミュージシャンとの出会いに感謝が止まらない。