いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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『日本教育新聞』2019年3月18日 都筑 学(中央大学教授)「先哲から学ぶ人生の知恵」
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 ザ・コンプリート・ココナツ・バンク(BZCS1148 / 2016)

markrock2016-12-23


ベルウッドからのリリースというのが、また戻ってきた感じで。アルバムを残せなかった「ごまのはえ」の発展系、ココナツ・バンクとしては初のフルアルバム『ザ・コンプリート・ココナツ・バンク』がリリースされた。伊藤銀次(12月24日がお誕生日ということで、おめでとうございます!)45周年に併せて…ということで。今回の布陣は伊藤銀次、上原ユカリ裕というオリジナル・メンバーに、佐野元春とも関わりの深い元ルースターズ井上富雄、そしてはっぴいえんどチルドレンなママレイド・ラグ田中拡邦。2003年作の音源では久保田光太郎がギターを務めていた。ゲストには杉真理佐野元春いまみちともたか鈴木雄大リクオDr.KyOn…とゆかりの面々が。初めにリリースインフォをチラ見した時は、タイトル的に2003年に新星堂のレーベル、オーマガトキからリリースされたミニアルバム『ココナツ・バンク』の拡大版+アウトテイクかな、と勝手に思っていたんだけれど、13年前と全く違和感の無い新録が7曲含まれていて。トライアングルVol.1の”日射病”や、ごまのはえ時代の楽曲(”お早う眠り猫君””春待ち顔 人待顔”)もある。この集大成的な構成はまさに「コンプリート」に相応しい。

それにしても『ベルウッド・シングルス』とか、春一番音源、『ライブ・はっぴいえんど『SHOW BOAT 素晴しき船出』、さらには布谷文夫と共演した『ホーボーズ・コンサート』だとか、ごまのはえ&ココナツ・バンクのライブ音源・シングル盤を勝手に編集してアルバムを作ってた人とか、いますよね。私もそのクチでして、そうなってくると完全に感慨深いものがあって。2003年のミニアルバム『ココナツ・バンク』の時も感動したけれど、バラエティに富んだ今作の方がトータルのクオリティが勝っている。やはり大滝さんの死が大きかったような。あの後、杉真理,伊藤銀次佐野元春でトライアングルを演ったり、佐野元春を加えての、まさかのはっぴいえんど再編ステージもありましたし。あの時のはいからはくちは本当に凄かった。


ということで、全体を通して聴いてみると、伊藤銀次のプロデューサー的視点(今作のプロデューサーではないけれど)が機能しているのかな、と思う。泥臭すぎず、良い意味で洗練されすぎず(ロック・サウンドの音の分離がいい)、しっかり歌モノにもなっていて、とてもバランスが良い。ギターは歌と同じで感情過多な楽器だと思っているけれど、こんなにうまいギターを最近のバンドでは殆ど聴けなくなってしまったから、気持ち良いくらいに指板を滑っていくソロに新鮮味もあって。そして、”じんじんじん”とか、懐かしいメロディも最高でした。ニューオーリンズものは、こんなご時勢で演奏できる人じたい、そもそも余りいないんじゃないかな。エンジニアのクレジットに目を移すと、ニュー・レコーディングは我らが!安部徹さんが半分の楽曲を手がけていて。チューリップから杉真理村田和人須藤薫…まで王道のポップ・サウンドを手がけてきた方ならではの、懐かしくも新しい音作りに敬服してしまう。



ところで、伊藤銀次の80年代の諸作ももちろん大好きだけれど、やっぱり”風になれるなら”が好き、っていう人は多いと思う。新作を機に改めて全作品を通して聴いてみたけれど、洗練されつつも生バンドのビートが腰に来る”風になれるなら”が収録されたファースト・ソロ『Deadly Drive』の音は代表作でありつつ実はキャリアでもちょっと異質で、AORな時代の波も捉えつつ、日本のシティ・ポップの源流になっていったことが良くわかった(今作の”流星ラプソディ”はその延長線上のようで)。そうそう、あと今作の新録は、近年の弾き語りツアー音源シリーズ(『I Stand Alone)にも感じられた優しい声の魅力が伝わる盤になっていることもうれしかった。バラードなんかも、グッとココロをわしづかまれる感じで。あとは今後のファンの期待と妄想ということでいうと、”君は天然色”とかナイアガラゆかりの楽曲の再演集とか、”DOWN TOWN”を含む提供曲の自演集…とか、聴いてみたいですよね。あくまで期待と妄想です。


ちなみに個人的なリアルタイムの伊藤銀次仕事は、1993年の『LOVE PARADE』と1995年のウルフルズ『バンザイ』。これらは永遠のマスターピースだと思っている。『バンザイ』には”福生ストラット”のアダプテーション、”大阪ストラット”があった。ブレイク前のウルフルズはむっちゃいなたい風貌でそれこそ春一番に出ていたのを観たのが最初だけれど(記憶が正しければ伊藤銀次自身も混じってギターを弾いていた)、大滝さんも指摘したとおり、90年代のごまのはえだったのかもしれないな、と思う。今作『ザ・コンプリート・ココナツ・バンク』にはザ・バンドを下敷きにしたという曲があったけれど、”バンザイ〜好きでよかった〜”はウルフルズにおける”The Weight”だと捉えている。1976年の春一番では、ごまのはえ・アゲイン名義で”The Weight”を演っていた。

伊藤銀次 / ゴールデン☆ベスト〜40th Anniversary Edition〜( Sony /2012 )はファーストと同じ構図のジャケで。レビューはこちら↓
http://d.hatena.ne.jp/markrock/20121227