いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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松倉如子と渋谷毅(Self-001 / 2018)

markrock2018-06-06



シュガーベイブのベーシスト、といいますか、ゴダールなどの映画の訳詩でも知られた寺尾次郎さんがお亡くなりになったとのこと。62歳、まだお若いのに…。佐野元春のデビュー前のバンドでベースを弾いていたこともあったようで、佐野さんの追悼メッセージもあった。娘さんはシンガー・ソングライター寺尾紗穂。この人の文章や思想にも惹かれるものがある。そういえば私がホームページを作っている、吉祥寺・井の頭公園のブルーズマンBroom Duster KAN宛に以前寺尾紗穂さんからメールを頂いたこともあった。

毎週通っている三鷹レコード屋さん、パレードにて。先日店長さんから聴いてみて下さい、と渡されたCD「松倉如子渋谷毅」。松倉如子さん(https://ameblo.jp/yukiko-m/)に関しては、はちみつぱいの渡辺勝さんとのデュオ作など、気にはなっていたのに、まだ聴けずにいたのだった。そしてジャズピアニストの大御所・渋谷毅さん、参加作や作編曲作品は色々聴いたことがあるけれど(坂本九見上げてごらん夜の星を」や由紀さおり「夜明けのスキャット」の編曲も!)、正直、ご自身名義の作品をじっくり聴いたことはなかった。本作は今年出た6曲入の新作。松倉作の「うた うたう」を除き、「あまだれピチカート」など渋谷の童謡作品(今までNHKおかあさんといっしょ」「みんなのうた」に楽曲提供してきた)が収録されている。

楽しみにして早速聴いてみたけれど……素晴らしいですね。松倉さんの唯一無二の個性的な歌声に、シンプルに、禅的に削ぎ落とした、悟りの境地のような渋谷さんのピアノが寄り添う。こういうピアノは、意図して弾けるものではない。アケタの店でレコーディングされたそうだけれど、生ピアノとライブ感のあるクリアな歌声が部屋中にしっとりと響き渡る。何とも心を打つんですね。山川啓介の詩との相性もとてもよい。そして、驚いたのは渋谷さんが歌っている曲もあったこと。ただ、歌うというよりも、松倉さんの唄に合わせて自然に声が出たかのような、作為のない「うた」。音楽はこんな風に湧き出てくるものなのかもしれない。

パレードの店長さんに感想を伝えに行くと、今度は浅川マキと渋谷さんのデュオ・アルバム『ちょっと長い関係のブルース』を何気なくかけてくれて、これがまた、素晴らしい仕上がりだった。マキさんは石川県出身で、私の母が通った高校の先輩にあたる。2010年にマキさんが亡くなった日も、渋谷さんとの演奏が予定されていたそうだ。このアルバムでの渋谷さんのプレイは、やはり歌伴に徹した、飾らない奥ゆかしいもので、何だか高田渡みたいだな、と思えた。そんな感想をすぐに伝えると、高田渡が2010年に北海道で体調を崩して亡くなったのも、渋谷さんとの共演ライブの直後だったのだという。それを聞いて、言葉を失ってしまった。こんな感情は言葉にはできないのだと思う。高田渡が住んでいた三鷹の町のレコード屋さん、渋谷さんのピアノとの素敵な出会いがあった。

P.S. 昨年発売された、高田渡2005年の東京ラストライブを収めたDVD『まるでいつもの夜みたいに』もとても良かった。三鷹の自宅を出て、ギター片手に歩きながらインタビューされるシーンから始まって。何だかまだ生きているような錯覚をおこしてしまう。まるでいつもの夜みたいに……。