/ Galveston ( Capitol Single / 1969 )
何週間前だったか、本屋に行くと『村上ソングス』という本が平積みされていて。村上春樹ね。雑誌エスクァイア(休刊になったらしいですな)の連載を2007年に単行本化したものが、翻訳ライブラリーの1冊として新書版で出たモノらしい。
元々『ノルウェイの森』(言うまでもなくビートルズからの引用)なんてのが代表作と言われてきたくらいだから、音楽とは関わりの深い人と言えるんだろう。この本にも取り上げられている”On A Slowboat To China”が彼の初めての短編小説のタイトル「中国行きのスロウ・ボート」になった、なんてのも全く知らなかった。興味がないってのは恐ろしいですね。最近彼と音楽の関わりを論じた本も出たくらいだから、手に取ってみた。和田誠とのコラボ本『ポートレイト・イン・ジャズ』や和田の好著『いつか聴いた歌』を思わせる装丁も気になって。
個人的には恥ずかしながら、村上春樹を読んだことがない(いや、件の『ノルウェイ』くらいは中学生の時に読んだかな、でも何も覚えていない!)。同じ村上でも60年代に引きずられて戦い続ける村上龍はそれはそれはよく読んだけれども、ある種現代的でクールな雰囲気の春樹氏には失礼ながら一度たりとも心惹かれたことがなかったというわけで。
さて、そんなわけで読んでみたわけだが、面白い。29曲、私も大好きな曲ばかりで。文体のさっぱり感と醒めて俯瞰した佇まいが現代社会に好まれるのが良く解った。訳詩もとても良い感じ。学生時代から、こんな風に洋楽を訳して楽しんでいたんだそうだ。素敵じゃないか!
学生運動にも引っかかるロック世代でありながら、ジャズ喫茶に逃げ込んだ彼らしく、ジャズ・ボーカルの名曲が目を惹く。ジャズの詩って、改めて面白い。ロック世代にも良くカバーされる”Miss Otis Regrets(ミス・オーティスは残念ながら)”とかね。さらにビーチ・ボーイズね。懐古趣味的な内容のブルース・ジョンストンの名曲”Disney Girls(1957年のディズニー・ガールズ)”を取り上げたのも彼らしいし、音楽の世界に閉じこもったブライアン・ウィルスン”God Only Knows(神さましか知らない)”をしょっぱなに持ってきたのも実に象徴的で。僕と君、それ以外の世界は視界にない、という。なんてこれまた現代的なんだろう!よく考えてみたら、90年代に本格化するブライアンの復活って、世界が彼のイノセンスや逃避にシンパシーを感じたからなのかもしれないな、と思ったり。
そんなわけで、暑苦しい反戦歌なんてないのかな、と思ったら、ありました。ジミー・ウェッブがグレン・キャンベルのために作った”Galveston(ガルヴェストン)”。私が初めて聴いたのはジミー・ウェッブの『Ten Easy Pieces』の自演版でありまして、感動の余り村上氏がしたのと同じように訳してみたのを覚えている。やっぱり多感な時期だからこそ、共感できる部分があったのかな。ジミーの感傷的な表現、声高に反戦を叫ばない所に万人に訴えかけるものがあった。棚を探したらグレンのシングル盤を発見。
普通なら、村上氏の著書を読み、そのバックグラウンドを理解するために彼の愛した音楽も聴いてみよう、となるんでしょうけど。流行モノには背を向けるへそ曲がりゆえ、よっぽど気が向いたら、その逆で今度はマトモな彼の本も読んでみるかな?
こんなサイトもありました↓
http://d.hatena.ne.jp/supiritasu/20071225