なぜかLPだけはジャンル別に一応律儀にAから箱に入れている。ロニー・マックのレコードを取り出していたら、Lの箱にあったレコード。リー・クレイトン、レン・ノヴィ、レン・チャンドラー、レオン・ビブ、レナード・コーエン、レオン・レッドボーン、ロボ、ロニー・ナイト…これは男性シンガー・ソングライターの箱だった。当初ロニー・マックをシンガー・ソングライターとして聴いていたことを前回書いたけれど、やっぱりはじめは随分勘違いしていたような。
でもこれは勘違いしてもしょうがないかな、と思ったのは、ロニー・マックの先達でもあったギタリスト、リンク・レイの『Link Wray』。1971年、ポリドールからのリリース。あのリンク・レイがスワンプ・ロックをやってのけた盤。同時代のロニー・マックやデイル・ホーキンスとも被るイメージ。ソウルフルなコーラスに彩られた”La De Da”からしてゴキゲンだ。苦み走ったようなレイのボーカルもとても良い。自身のギター、ベースに加え、ビリー・ホッジスの鍵盤、ボビー・ハワードのマンドリンとピアノ、弟のダグ・レイとプロデュースや曲作りに名を連ねるスティーブ・ヴェロッカのドラムス。シンプルなバンド・サウンドながらゴスペル・タッチのコーラスが厚みを感じさせる。エンジニアは兄ヴァーノン・レイだ。ネイティブ・アメリカンの出自を持つレイだけに、そんなルーツに自覚的なジャケットだ。レイの顔が浮かび上がる変形ジャケットになっているのが面白い。そう、かつて下北フラッシュの均一盤コーナーで発見したのだった。本当に素敵すぎる。
あと、ロス・ブルース(Los Blues)も存在を忘れていた。久々に聴いてみると、土臭くも爽やかなコーラスとファンキーで弾むようなブラウンアイド・ソウル・サウンドがかなり秀逸で。ホーンとコンガなども入ってブラス・ロックやラテン・ロックっぽさがあるのもかなり好みだ。てか全体的にはジャズ・ロックですね(ボビー・ブランドなどが歌った”Ain’t That Loving You”なんかも最高!)。これもリンク・レイ同様1971年の盤だった。『Volume One』とあるけれど、続編は出ていない。5曲でボーカルを取るランディ・ギャリベイというギター&ボーカルがとてつもなくソウルフルな喉を持っている。この人はチカーノ・ロック・シーンのミュージシャンみたいだけれど。チカーノ、テックス・メックスものを漁ると、アメリカを中心とした周縁のローカルながら芳醇な音楽シーンが見えてくる。中にはメジャー配給で音楽シーンの中心に滑り込めた者もいるけれど。何しろ彼らのこのデビュー盤はユナイテッド・アーティスツですからね、彼らも成功の切符を一度は手にした者達だったのではなかったろうか。そんなメジャーとの折り合いみたいな所が、本作におけるカバー曲なのかな。ジミー・マクファーランドが歌うキャロル・キング/アレサ・フランクリンの”(You Make Me Feel Like) A Natural Woman”とか、ジミー・ウェッブの”If You Must Leave My Life”だとか。アレサは”Spirit In The Dark”も収録。ウェッブの”If You Must Leave My Life”はウェッブ・ファンの私からすると、相当の名演だと思った。リチャード・ハリスの『A Tramp Shining』に入っている、切なくもドラマチックな1曲。うーん、これは凄いな。ラストはトラフィックの”Smiling Phase”とウェッブの”MacArthur Park”のメドレーという異色アレンジ。それしても、フォー・フレッシュメンみたいなコーラスを披露してみたり、卓越した演奏・歌唱・アレンジ能力をもつ、こんな彼らでもはい上がれなかった70年代初頭のアメリカって、一体?
などと疑問に思って調べてみると…白人メンバーでトロンボーン&アルト・サックス奏者、プロデュースにも名を連ねるジム・ウォーラーはジャズの世界で結構キャリアのある方だった(http://www.uiw.edu/music/fulltimefacultybios/waller.html)。アメリカ空軍のバンド、トップス・イン・ブルー(1953年結成で、今も日本の米軍基地などで公演をやっている…)やイギリスのニュー・ヴォードビル・バンド!のアレンジとかも手がけているようだ。このロス・ブルースというバンドは元はラス・ヴェガスのホテル・ラウンジの箱バンで、サミー・デイヴィス・ジュニアやデューク・エリントン、フォー・フレッシュメンら大物との共演歴があったらしい。そう言えばアルバムに"Vegas Funk"というインストが入っていたな。もちろんロス・ブルースでデビューした後は並み居るソウル・ロック/レジェンドとの共演もあり…まったく恐れ入りました。