/ さびしいと いま ( Concipio Records / 1997 )
今でも吉祥寺を歩いていると、高田渡を思い出すことがある。建て直された「いせや」本店。正直往時の風情は全くないけれど、飲んだくれて自転車に座り込む渡さんがいないかと目を追ってしまう自分が居る。渡さんに初めて(そして最後になってしまった)声を掛けたのは、そのいせや本店の向かい側。たぶん奥さんと2人で居るところだった。ぼくは70年代の学生を気取って、くしゃくしゃのウェスタン・シャツにベルボトムを穿いていたんではなかったか。
今日、中野のレコード屋で「さびしいと いま」を見つけた。なぜかこのシングルだけは買わずじまいになっていた。石原吉郎のタイトル曲と、菅原克己の幽霊語り、”ブラザー軒”をさっきから繰り返し聴いている。
このCDを見ると、思い出す場面がある。吉祥寺のレンガ館モールを出たところで、渡さんを目撃したときのこと。ジャンパーを着て、スーパーのビニール袋をぶら下げて立っていて、渡さんだ、と思った。通り過ぎた後レコード屋に立ち寄ると、「さびしいと いま」を見つけて。ちょうど発売されたばかりだったはず。当時、まだそんなにレコードやCDを買えなかったから、2曲で1000円というのがどうにも高く思えてしまって。そんなわけで買わずに店を出ると、渡さんはまるで風のように消えていた。
なんて力強い歌声なんだろう。12年前の風を今日つかめたかどうかはわからないけれど、ぼくは「あの」時に縛り付けられたようで動けない。