/ Listening Booth :1970 ( Saguaro Road / 2010 )
やっと届きました。マーク・コーンの新作。90年代にデビューしたシンガーソングライターで一番肌にあった人はこの人だった。ジェイムス・テイラーと言ったウェスト・コースト人脈がバックアップをしていたからなのか、解らなかったのだけれど、その理由が解った本作。1970年にタイムスリップして、当時のマークのフェイバリット・ソングを楽しめるという趣向。その選曲がこれまたドツボだったのだ。うーむ。ぼくの方が20歳若いけれど、人生を変えてくれたのは確かにこの時代のミュージシャンであり、楽曲なのであった。
マークの震えるビター・ヴォイスが影響を思わせるキャット・スティーブンスの”Wild World”にはじまり、ジョン(”Look At Me”)&ポール(”Maybe I’m Amazed”、コノ曲はエルトン&ビリーはじめピアノ系シンガーソングライターに相当の影響を与えているはず。マークはご多分にもれず)、インディア・アリーと歌うブレッドの”Make It With You”、ボックス・トップスの”The Letter”、J.J.ケールの”After Midnight”、CCRの”Long As I Can See The Light”、グレイトフル・デッドの”New Speedway Boogie”、スティービー・ワンダーの”The Tears of a Clown”、バッドフィンガーの”No matter What”(コーラスはエイミー・マン)、ヴァン・モリスンの”Into The Mystic”という。思わず全部挙げてしまったけれど、個人的にも大好きな曲ばかり。しかも、S&Gなら”The Only Living Boy In New York”を持ってくる辺りが痺れてしまう。ブルーズ、ロック、ソウルといったアメリカンミュージックの深遠な響きを感じさせるマークの音楽性はここに育まれり、という。前作のタイトル曲”Listening in Levon”ではザ・バンド(リヴォン・ヘルム)への愛情も窺い知れて。もう、最高!これゃ彼の音がピンと来たわけだ。
プロデュースはジョン・リヴェンサール。空間を生かしたアクースティックな音作りには定評がある。金太郎飴的だけれど、個人的にはショーン・コルヴィンで聴きまくった好きな音。ジョンが余りに楽器に達者なためか、マーク自身のピアノやアコギが聴けないのは残念だけど。
ライナーを読むと、オハイオ州クリーブランドに生まれた彼がかつて通っていたレコード・ストア”John Wade”について語られる。まさかおんなじ業界に入るとも知らず、LPや45回転のレコード棚、そしてジャケットをドキドキしながらくまなく眺め、プレイヤーやプロデューサーに思いを馳せた時代。音楽にはソウルやポエトリーがあり、人生を変え、運命を覆す力があった…という、マークの言葉に胸が熱くなってしまった。ロックの歴史を考えるとビートルズやS&Gの解散と言った時代の転換点である1970年、来る日も来る日も、レコード・ストア”John Wade”のリスニング・ブースで聴こえてくる音に耳を澄まして、胸躍らせていたのではあるまいか。
ぼくがマーク・コーンに出会ったのもそんなレコード屋の店先だった。1993年のデヴィッド・クロスビーのアルバム『Thousand Roads』にマークが作り、参加した”Old Soldier”という曲があって。聴いてみるとグレアム・ナッシュ&クロスビーにしゃがれ声のマークは、スティルスみたいで、とてもきれいなハーモニーだったのを覚えている。そして手に入れた『Marc Cohn』 。これを手に入れたのは、高田馬場にかつてあった『DISC FUN』という中古レコード屋だった。なぜかマークのサインらしきものが入っていたけれど、300円で店外に野ざらしになっていたし、いまだに誰かの落書きかもしれないな、と思っている。