ここの所、物書きに没頭していて、音楽には辿り着きつつも、なかなかブログに辿り着けなかった。積まれた本と格闘という感じ。そして、何より、レコード&書庫部屋に暖房がないというのが一番大きいかな。とにかく冷えます。隣の部屋の暖気をもらってなんとか。冷たい部屋でふと正気にかえる時もある。
さて、今日はマーク・コーンを聴いている。大統領就任式の日の彼のツイッターを見ていたら素直に、悲しい!と書いてあった。去年『Careful What You Dream: Lost Songs and Rarities』(http://marccohn.net/)というレア・トラック集を出したんだけれど、アメリカ国内のみCD販売があり、国外販売もいずれ、とHPにある。でも、待てど暮らせど国外からの購入環境が整わない。ダウンロードなら買えるんだけれど。Walking In Memphisでグラミーを獲って一世を風靡した彼でも、国外ファン層は限られているし、現状はシビアなのかもしれない。
ウェスト・コースト・ロック界のリベラリスト達が90年代に一押ししていたのがシンガー・ソングライターのマーク・コーンだ。1991年のファーストにはジェイムス・テイラーが参加した。1992年のバルセロナ・オリンピックの公式CDに収録されていたOld Soldierは、デヴィッド・クロスビー1993年のソロ『Thousand Roads』でナッシュ、マークのハーモニー付きで歌われたし(先日紹介したデヴィッドの新作にもマークとの共作があった)、ジャクソン・ブラウンのアルバム『Naked Ride Home』にコーラスで参加していたこともあった。そう、アート・ガーファンクル1997年のチルドレン・ソング集『Songs From A Parent To A Child』にはマークのThe Things We've Handed Downが取り上げられている。
ぼくはすごく小さい頃アメリカに住んでいて、現地の学校でマーク、と呼ばれていた。自分のことを「まーくん」と言っていたから、マークになったんだと思う(笑)。そんなわけでマークという名前の人には妙に親近感がある。そして、1959年生まれ、32歳という遅咲きのデビュー。ぼくも初めてCDを出せたのが32歳だったから、勝手に妙な親近感を持っているというわけ。そう、大学生のとき、今はなき高田馬場のDISC FUNにて(最近当時のレコード袋を発掘した)、店外の野ざらしのCDの中に、マークのサイン入CDがあった、なんてことも。業界関係者がやたらサンプル盤を流出させていた店だったから、マークはプロモーションで来日していたのかも。
最近ネットで調べていたら、1991年のファーストまではLPがヨーロッパではリリースされていたようだ。1992〜4年頃が、LP・CD・MD・カセットとメディア百花繚乱だったギリギリの時代かな。それ以降のLPはDJユースになる。そんなこんなで最後の時代のLPを入手してみたところ…おお!!感無量と言うか、とにかくいつになく新鮮に響いた。ジャケットのポートレイトはCDジャケより大写しになっていた。
結構アナログに響く音で、ピアノの響きがとりわけすごく良い。今聴くと、ブルース・ホーンズビイのピアノ・ロックを参照しているようにも聴こえる。
一方、1993年のセカンド『Rainy Season』はCDのみのリリース。シングルカットされた曲のみ、レコードでリリースされていて。このアルバムは丸ごとアナログで聴いてみたかったから、ちょっと残念。手元にあるシングル盤はアルバム中一番好きなWalk Through This Worldという曲。2012年にジョー・コッカーもカバーした。シングル盤の音自体はというと、この辺の時代からアナログ向けの音と言うより、そもそもデジタルなCDリリースを前提とした音って感じがします。バンドサウンド自体は王道アメリカン・ピアノ・ロックなんですが。これはCDと変わりはないですね。いやー、それにしても、この曲を下敷きにして作った曲もあるんですが、時効ということにして下さい…。
プロデュースはベン・ウィッシュ。翌年にマーティン・ジョセフというシンガー・ソングライターの『Being There』というアルバムをプロデュースしていて、これがまた大名盤。アレッシー兄弟も何気なくコーラス参加している。このアルバムやマークのファーストでギターなどを弾いて大活躍しているのがジョン・リヴェンサール。奥さんはジョニー・キャッシュの娘ロザンヌ・キャッシュ。この人の音作りは90年代を象徴する、洗練されたシンガー・ソングライターの音だったと思う。ショーン・コルヴィンとか、ロドニー・クロウェルとか。マークが参加したものもあったし、とにかくよく聴いた。
マークはファーストを出す前に、出身のオハイオ州クリーヴランド賛歌のシングルを1986年に地元でリリースし、1987年にはアンドリュー・ロイド・ウェーバーの『Starlight Express』(レビューは→http://d.hatena.ne.jp/markrock/20050509)のサントラでボーカルを取っている曲がある(リッチー・ヘブンスが歌う曲もある)。
ニルソンのトリビュート・アルバムでTunn On Your Radioを歌ったりというのもありました。これはカセットをロンドンで買った記憶がある。
三作目の1998年『Burning the Daze』でアトランティックと契約が切れて(2006年にベスト盤が出た)、その後は2005年にライブ盤『Marc Cohn Live 04/05』が、2008年にはデッカと契約してアルバム『Join the Parade』(レビューは→http://d.hatena.ne.jp/markrock/20071111)をリリース。これがまた素晴らしくて。ザ・バンドを聴いたときのイノセントな感動が伝わってくるListening To Levonが最高だった。カーラジオから流れてきたリヴォン・ヘルムの歌声に心を奪われ、ガールフレンドの話は耳に入らなくなっちゃった、なんて曲。
そして2010年には影響された70年代のシンガーソングライターの名曲カバー集『Listening Booth: 1970』(レビューは→http://d.hatena.ne.jp/markrock/20100913)をリリース。その曲目を見て、この人を嫌いになるわけがない、と思いました。あと、2013年のジミー・ウェッブの『Still Within The Sound Of My Voice』(レビューは→http://d.hatena.ne.jp/markrock/20130921)ではアート・ガーファンクルのAnother Lullabyで共演していたりも。
それにしても、20年近く日本盤が出ていないせいか、日本で余り語られていないのは寂しい。2005年にはスザンヌ・ヴェガとのツアー中、コロラド州のデンバーでカージャックに遭い、弾丸が目の近くに命中し、九死に一生を得るという惨事もあった。トラウマで心を病んだりということもあったようで、一時期リリースが少なくなったのはそれが理由だったのかもしれないな、と思っていた。いつか生で見れたら…という夢だけは叶わずとも、持ち続けていたい。
謎のライブ盤(海賊盤?)も一時期よく見かけた。インタビューCDはプロモーション用のもの。Walk Through This Worldの2枚組マキシシングルにはOld Soldierや未発表曲も含まれている。