/ おかえり ( F-records MFCD-9001 / 2009 )
4月に発売されて以来、レビューが遅れてしまったけれど、日本のフォークソングを受け継ぐ正統派フォークシンガー、松田亜世の新作フルアルバムを。私の旧い友人でありフォークを語り合える数少ない良き仲間でもある。
さて、シングル『想ひ出雪 / 鳥越にて / 天漢』に続く待望の本作は、恒例月イチのワンマンのライブで歌い込んで来た新作・旧作をギッシリ詰め込んだ珠玉の11曲。往年のフォークファンはもとより、老若男女問わず受け入れられるであろう、スタンダードの風格がそこにはある。プロデュースはチューリップや杉真理のMixを手がけているおなじみ安部徹。
岡林を思わせるエンヤトット・アレンジが新鮮なM-1”越のしらやま”でスタート。故郷や日本人が脈々と受け継いできた伝統に深い敬意を表すテーマは彼の本分。M-2”盂蘭盆会”も同様。こちらは美しいバラードだ。ちなみに演奏はライブでもおなじみのヴァイオリン、多ヶ谷樹(EX.浜崎あゆみ)、キーボード 木内健、ベース 山西宏樹という布陣。
さて今回はゲスト参加も聴き所。さだまさしのバンド亀山社中のギタリストとして著名な坂元昭二がM-3”渇愛”、M-6”友白髪”にギター/マンドリンで参加。M-3は3フィンガーと“タンタタン”ってなパーカッションからして文句ナシの王道フォーク。松田亜世本人と坂元昭二のアコギ2本で奏でられるM-6の無骨な仕上がりも必聴だ。ライブにおける人気曲M-4”ひろみ湯”もとうとう収録。コレは銭湯の歌!この昭和感は出そうと思って出せるものではない。思わず頬が緩む。5年ほど前だろうか。彼のライブにギターバンジョーを持ってお邪魔して、この曲を演奏したこともあったっけ…。なんとも懐かしい。
タイトルにオドロクM-5”好色男は正直者”は情熱的なハープのフレーズが印象的なロック寄りの1曲。そうそう、本作にはピアノ中心の楽曲に印象的なものがあった。嶋田陽一(EX.杉真理)のピアノに導かれて訥々と歌われるM-8”坂の途中”。「人生の曲がり角 おぼろげな10年先の自分 人生の登り坂 たどり着いて海が見えるといいな」ってなフレーズがいい。”Don’t trust over 30”を叫んでいたものの、30を迎えてしまいそうな今。もう一度生きる指針の再考を迫られている己の現状を思い、グッと来ました。愛だ恋だのというありふれたテーマを飛び越えて、生きる事を歌にするって素敵だな、と思う今日この頃。
そしてそして、こちらもライブの定番M-9”君の待つ海”。こちらには前作『がんばるまっし』(2007)(http://d.hatena.ne.jp/markrock/20070317)でも流麗なカントリー・ワルツをピアノで聴かせてくれたサントリィ坂本(EX.稲垣潤一)が参加。優しくも力強いボーカルと相俟って、夕暮れの海を思わせる情景が眼前に浮かぶ名演ナリ。ラストは故郷の金沢弁で歌われるM-11”月”。「あんたのお陰さんであんやとう」はファンへの思いと受け取れた。待望のフルアルバム、多くの人の耳に届くことを祈っています!!