/ 午前中に… ( avex AVCD-23840 / 2009 )
拓郎の新作。テイチクからの諸作はなにやらリメイクばかりの懐メロ・プロダクションばかりで個人的には気に入らなかったのだけれど。さて、新作はavexからということで身構えてはみたものの、フォーライフ時代末期を思わせる肩の力の抜けた新曲集で好感が持てた。ただし本作の体を示さぬ青ジャケは勿体無いの一言。
中身はガン闘病を踏まえた悟りの境地から放たれる楽曲群。M-1”ガンバラナイけどいいでしょう”からして、団塊の世代に響くメッセージ。拓郎は変わったなどと長らく言われてきたけれど、M3”フキの唄”なんてのを聴いていると、エレック時代と変わらぬ唄づくりをしているようで。今回面白いと思ったのは深夜タクシーの架空の会話を織り込んだM-4”真夜中のタクシー”。この発想、かつての『元気です』の時代にはあったスタジオでのアイデアを曲にしちゃいました的なラフ・ワーク。近作にはなかった拓郎らしさはコレなんだな、と思う。往年のファンが喜びそうなのはM-5”季節の花”。1999年のシングル”心の破片”もそうだったけれど、時折70年代風の音をこうして蘇らせてくれたりするのだ。あと面白かったのは、”ホームラン・ブギ”をかつてカバーした彼らしい、ロックなシャウトが痛快なM-9”Fの気持ち”。ギターコードをうまく織り込んだノベルティもの。小林旭が歌っていたような。ラストはM-10”あなたを送る日”。こんな唄を歌う歳になっているですな、タクローも。
全曲拓郎の作。コレが本作では良かった。岡本おさみや松本隆など、本人以外の書いた詩の印象が強いのだけれど、彼のエッセイなんかと同じタッチの独白はいまもなお魅力的なのだ。