/ Spinach ( ポニーキャニオン / 2009 )
発売前日に入手。聴いた当初は割とボーカルが引っ込んでるな、と感じる部分もあって。オリジナルの“グッド・タイム・ミュージック”なんかと比べちゃうとつい。ソニー時代の諸作をそれこそ擦り切れるぐらいに聴きこんできたものだから。でも、何度も何度も聴くうちに、現役の斉藤哲夫がこれだけ歌えてる、と思ったらなんだか感動してきた。うん、とても良い。ライブを観たい、と思わせられる盤。
URC〜ソニー〜キャニオン〜フォーライフ(シングルのみ)とレコード会社を渡り歩き、近年はナツメグからほぼ自主盤の趣の『ダータ・ファブラ』を発表。生田敬太郎とはFFAから共演作をリリースしたり、Birdsongからはマキシを発表…とにかくレーベルを超えたベスト盤を作るのが困難な状態が続いてきた人。それだけに、同じ質感で歌われるキャリアを代表するセルフカバーベストは、まさに長らく望んでいたもの。
バンドは『ダータ・ファブラ』でも名を連ねていた斎和重、東島正知、竹田裕美子の他、近年共にライブを行っているさがみ湘(Piano)らが参加。M-1”野澤君”では当の野澤享司がギターで参加。のっけから、フォーキーな仕上がりの本作の色を出す。M-2”グッド・タイム・ミュージック”は、本人の多重コーラスに始まる簡素な仕上がりだが、楽曲の構成の妙に次第に引き込まれていく。「クリスマスの約束」で小田和正と共演したテイクは秀逸。ちなみに、この番組への出演以降、斉藤氏の覇気がそれまでと違う気がするのは気のせいだろうか。
M-3”悩み多き者よ”は、アクースティック時代のオフコースがレパートリーにしていたもの。若き哲学者のURCを代表する名曲でもある。M-4”甘いワイン”も、中野督夫(EX.センチメンタル・シティ・ロマンス)、湯川トーベン(EX.子供ばんど、エンケンバンド)、野口明彦(EX.シュガーベイブ、センチメンタル・シティ・ロマンス)らをバックにつけた『ダータ・ファブラ』に比べ、大分アクースティックなアレンジ。本曲のデモを聴くような気分になる。M-5”ダンサー”M-12”セレナーデ”は2月に初CD化される『一人のピエロ』からの曲。『一人のピエロ』はなかなかいい盤。同じく初CD化される『いつもミュージック』からは、ドゥービー・ブラザーズなタイトル曲M-10をリメイク。M-6”グッドモーニング”は2002年のマキシの再録。M-7”さんま焼けたか”は実家が大森の大衆食堂という彼のルーツを思わせる曲。オリジナルの瀬尾一三のアレンジは、後の瀬尾アレンジの長渕”俺らの家まで”のアレンジの元になったはず。ちなみに瀬尾さんはふきのとう ”風来坊”で施したフォルクローレ・アレンジをチャゲ&飛鳥 ”万里の河”で再利用したりもしている。まあどうでもいい話だが。M-8”夜空のロックンローラー”は『僕の古い友達』より。メロディ・メイカーとしての側面を存分に発揮。M-9の代表曲”バイバイグッドバイサラバイ”は、生田敬太郎との共演作でもリメイクされていたけれど、いいものはいい。M-11”もう春です(古いものは捨てましょう)”はアルバム『バイバイグッドバイサラバイ』の収録曲。中学生の頃、ちょうどCD選書でCD化されまして。懐かしい一曲だが、オリジナルよりもテンポアップしていて、その枯れた味わいもまた良し。ハイトーンは流石にキツそうだが。M-13”吉祥寺”は街のテーマソング。コレを聴きながら「Boga」に行く私の日常。
ラストはボーナス扱いで”いまのキミはピカピカに光って”。この曲は、原曲アレンジを崩さない今回のやり方が正解。鈴木慶一作曲というのも今になって聴くと、ファミリーでもあるわけだし、何ら違和感を覚えない。
“されど私の人生”は?と言う人もいるだろうが、2007年のコンピ『70’s フォークの殿堂』(PULLUP RECORDS)(http://d.hatena.ne.jp/markrock/20070528)を買うべし。”されど私の人生”と”ピエロ”の新録が収められていて、こちらもカナリの完成度!!今年は必ずライブに行こうかと。