/ アパートメント1109 ( 東芝EMI ETP-72129 / 1972 )
今年はジャパフォーク・ロック関係のベテラン新譜が面白い。まず、コロンビア『フォークの匠』シリーズで、1月にはベスト的選曲の新録、斉藤哲夫『SPINACH』が、2月には加奈崎芳太郎(EX.古井戸)が中西康晴(EX.サウストゥサウス)のピアノと対峙した『Piano〜Forte』がリリースされる。3月は元ふきのとうの山木さんの新譜も出るようだし。メジャーから落ちちゃっているベテランが多い昨今、このシリーズはなかなかに良い。さらに小坂忠やムッシュの新作だとか和幸(加藤和彦・坂崎幸之助)『ひっぴいえんど』だとか。お金が足りません。
さて、今日は当時の音楽シーンの中ではかなり重要な位置を占めていたことがわかる杉田二郎の名作を。時代を感じさせないジャケットデザインも秀逸。この盤、古い盤の割にどの中古屋でもジャケがキレイな状態で残っている。ジローズ解散後に出された初めてのソロアルバムで、1972年と言う時代を反映して、歌謡曲っぽさとフォークSSWっぽさの間をいく仕上がり。
参加陣にまずは目がいくのは致し方ない。まず、ガロのトミーこと日高富明がアコギで全面参加。D-45と思われる弾けるようなソロを弾いていて、ガロ・ファンには見逃せない作。そして、当時杉田にくっ付いて活動していたオフコースの小田和正と鈴木康博が11曲中8曲で丁寧なコーラスを付ける。さらに、プロデュースに加わった柳田ヒロ(キーボードでも参加)の人脈か、ニューロック一派が多く参加。石川鷹彦や岡沢章と言った、杉田の盤に参加していそうなイメージのある面子を圧倒する。何しろフライド・エッグより高中正義、イーストの足立文夫、弦アレンジに深町純、ドラムスにチト河内、さらには山内テツ!までもが参加。
まずA面。童謡“チューリップ”に導かれて始まる、及川恒平作詞のA-1”あの扉をあけて”は階段コードのワルツ調ミディアム。日高のアコギが実にいい音で録れている。早速コーラスでは小田の声が目立つ。A-2”君は眠る”はマイナーコードの湿っぽいフォークだが、間奏が、これまたガロでもなかなか聴けない熱い日高ソロなので必聴。A-3”人力ヒコーキのバラード”はベスト盤にもしばしば収録されている名曲で、オフコースとのコーラスワークが聴きモノ。間奏に聴けるギター・アレンジはガロそのものだ。フォーキーなバラードA-4”孤独の広場”に次ぐA-5”まわらない木馬”もまたまたイントロがガロ!日高のセンスだ。他愛ない曲ながら、バンドサウンドが絶妙に盛り立てていく様は見事。
B面は杉田の多重コーラスで始まるB-1”若いというだけで”(泉谷しげる作詞)で幕を開ける。ここでは六文銭の原茂がアコギで参加。日高のアコギソロと高中のエレキソロのせめぎ合いが聴きモノ。これはフォークではなくてロックの音。メジャーセブンスのアコギが堪らないB-2”ひとりになれば”は黄昏系ソフトロック。目立つ小田のコーラスが絶妙。高中の3連のイントロから乗ってくるB-3”憂世”は弾むようなポップソング。オフコース鈴木康博の詞。そのオフコースとキレイにハモる箇所も聴き所。リズミカルなアコギのカッティングに高中のものとしか思えないエレキソロが熱く切れ込んでくるあたりは失禁モノだ。本作屈指の名演か。フォーキーなバラードB-4”春は寂しいネ”(吉田拓郎作詞)を挟んでB-5”夕ぐれ時計”はカントリータッチの作だが、ガロのトミーがコーラスを付けているのが珍しい。バンジョーを弾くのはイースト在籍時の吉川忠英。ラストのバラード、B-6”あるがままに”を聴いていたら、なんだか岡林のバッキングを思い出した。杉田盤でバッキングを付けている柳田と高中ははっぴいえんど後の岡林のバックを務めていた。はっぴいえんどに比べて余り珍重されないきらいがあるけれども、凄い人達。