いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

f:id:markrock:20190212213710j:image
いしうらまさゆき へのお便り、ライブ・原稿のご依頼等はこちらへ↓
markfolky@yahoo.co.jp

f:id:markrock:20190212212337j:image
[NEW!!]極北ラジオ石浦昌之の「哲学するタネ」が書籍化されました。 『哲学するタネ【東洋思想編】――高校倫理が教える70章』(石浦昌之 著)2018年9月発売!! ●石浦昌之著 ●定価:本体2500円+税 ●A5判(並製)384頁
詳細はココをクリック
注文はココをクリック

【書評掲載】
『情況』2018年秋号 田中里尚(文化学園大学准教授)「教えられぬことこそ語り続けなければならない―石浦昌之の実践について―」
『日本教育新聞』2019年3月18日 都筑 学(中央大学教授)「先哲から学ぶ人生の知恵」
ココをクリック

 Arthur Alexander

markrock2009-01-07

/ Lonely Just Like Me : The Final Chapter ( Hacktone / 2007 )


毎日色々なレコードを聴いているけれども、定期的に聴きたくなるレコードはそうは無い。このアーサー・アレキサンダーの遺作は数少ないその内の一枚。悲しみを乗り越えた声、とでも言おうか。どんな時でも癒される。


アーサーの音盤はと言うと、手に入るところは手に入れ尽くしたものだから(1972年のワーナー盤以降、70年代半ばにブッダから”Everyday I Have To Cry”のシングルなんかがちょこっと出た位で、以後は遺作まで音沙汰が無かった)、もう新しい歌声は聴けないかと思っていたのだが、こんな嬉しい再発盤が一昨年に出た。入手したのは昨年。都合この盤は3枚買ってしまったことになるが、元の12曲に加えて多くのボーナストラックを含んでいるということで、ファンならば少なくとも買いだろう。


元のアルバムの12曲については、曲順がプロデューサーであるベン・ヴォーンが当初意図していた形に変わっている事と、リマスターされた事の他、一聴して大きな変化は無いので、以前書かせてもらったレビューに負うとしよう(http://d.hatena.ne.jp/markrock/20060110)。とりあえずボーナス音源の検証を。


まずは1993年、アメリカの公共放送局NPR(Nationai Publis Radio)の人気番組“Fresh Air”に出演した際の唯一のプロモーション用インタビュー&ライブ音源。代表曲M-14”Go Home Girl”、M-18”You Better Move On”、M-20”Every Day I Have To Cry”、そしてM-16"Genie in the Jug"を演奏。ボビー・ジェイのリード、ベン・ヴォーンのリズム・ギター、マイク・ヴォーグルマンのベース、セス・ベアーのドラム、という布陣。音質はかなり良い。


さらには"The Hotel Demo"。これは、1991年12月にクリーヴランドのホテルでプロデューサーのベン・ヴォーンが初めてアーサーと会った際に録られたデモ音源だ。ベンのギターに合わせて歌うアーサーをマイクでざくっと拾った、空気感のある音だが、面白いのは、アーサーがニール・ダイアモンドのファンで、M-21”Solitary Man”をアルバムに入れたがり、デモを録っていたと言うこと。結局入らなかったわけだけど、なかなか良いテイク。マイナーメロに映える歌声だということを本人も自覚していたのかどうかは、わからない。他はM-22”Johnny Heartbreak”、M-23”Genie in the Jug”、M-24”Lonely Just Like Me”というアルバムに収めた楽曲のアクースティックデモ。


そしてラストは、待ってましたとばかり、1991年のボトムラインにおける復活ライブで披露したM-25”Anna”。ドニー・フリッツのエレピとジョン・タイヴンのアコギに合わせて歌うアーサー。その会場に居た誰もが、こんな才能を10数年にもわたり埋もれさせてきたことを後悔したに違いない。ここに居合わせたエレクトラ/ノンサッチ・レコードのダニー・カーンが新作のハナシを持ちかけたのだった。ちなみにこの音源自体は既出。1994年のコンピ『In Their Own Words Vol.1』の初っ端に収録されていた。そうそう、この曲の後にひっそりと収録されたM-26は、クレジットナシのシークレットトラック。アカペラで聴かせる作品で、件のホテル・デモの一部と推測できる。


てなわけで、この再発盤、名付けて”The Final Chapter”。これが最終章と言うに足る作品!写真立て風のアートワークも良い。レコーディングのスナップや宣材も付属。音楽業界に落胆して故郷に帰り、信仰とバスの運転手と言う仕事に人生を捧げていた彼を、音楽の世界に呼び戻すまでの歩みと、久々のカムバックにナーバスになる彼を気遣う周囲の気持ちを痛いほどに感じさせる、プロデューサーの涙ながらのライナーも必見。ダン・ペン、ドニー・フリッツという旧友を従えて、かつて録音したあの名曲”Rainbow Road”の再収録を試みようとしたらしいが、殺人を犯して隠遁していたと思われたくなくて、アーサーが収録を断ったため、永遠にオクラ入りした、などというエピソードなども興味深かった。


1993年、ここに収めた復活アルバムのプロモーション・ライブの2ヶ月後に体調を崩して亡くなったアーサー。カムバック後の世間の再評価を「大昔に蒔いた種は良い種だったように思える」なんて受け止めていたようだし、こうして素晴らしい遺作を残せたわけだから、幸せな最期だったのではないだろうか。彼の人生も含めて、アーサー・アレクサンダーを聴いていると切ない気持ちにさせられる。