/ Natural History ( Victor / 2011 )
これだけリリースを心待ちにしたってのも久しぶりだ。6人目のイーグルス、なんて肩書きがいまだに取れないJ.D.サウザーの新譜セルフカバー集。もう66歳になっている彼だが、ベスト盤の怪物的な売り上げで知られるアメリカを代表するロック・バンド、イーグルスと全米No.1シングル”The Best Of My Love”を初め、多くの名曲を共作したことで知られている。
それも、イーグルスのメンバーであるグレン・フライとロングブランチ・ペニーホイッスルというデュオをかつて組んでおり、Amosからシングルとアルバムをリリースしていたという縁があったもの。同居していた安アパートには若きジャクスン・ブラウンもおり、それは”Take It Easy”の共作として結実している。
個人的には、イーグルスも聴き狂ったけれど、このJDのソロアルバムはそれ以上に聴き狂っていて、ライブで”I’ll Take Care Of You”をカバーしたこともあった。ディキシー・チックスが同曲を取り上げたときは驚いたけれど。
今作のプロデュースは、カナダの大御所フレッド・モーリン。マシュー・マコウリーとのプロデューサー・コンビでダン・ヒル、アメリカらを手がけて、曲を生かしたシンガー・ソングライターの適切なプロデュース・ワークは、ジミー・ウェッブ、バリー・マン、クリス・クリストファーソンらのセルフカバー集に極まり、オールド・ファンを驚喜させた。
そんな生成の肌触りを大切にソングライターに寄り添った音作りをするプロデューサーという印象のフレッド・モーリンは、
http://www.youtube.com/watch?v=gB05mvvB8J8
で初めて顔を拝見したところ、予想外でやり手の小説家みたいな顔をした男だった。
さきの来日公演のごとき、お金をかけていないアクースティックな音。ミックスはカイル・ラーニングというナッシュビル録音(JDはナッシュビル在住)。薄口の優しいメロディに極上の枯れた歌声が載ってくる。一番聴きたかった”New Kid In Town”や”The Best Of My Love”、”The Sad Cafe”のJD版はやっぱり素晴らしい。頑張ってライブのブートレグを手に入れたあの頃が懐かしい。こんなきれいな音で聴きたかった。
選曲は初期の名バラード”Silver Blue”、”Faithless Love”やサウザー・ヒルマン・フューレイバンドで自演したこともあった”Prisoner In Disguise”(いずれもかつての恋仲リンダ・ロンシュタットが取り上げた)から、日本ではウェストコーストAORのファンも掴んだ”You’re Only Lonely”(ロイ・オービスンのオマージュ曲で、ロイの『Black and White Night』にもJDは参加していた)、さらには2009年の『If The Word Was You』ではピカイチのバラードだった”I’ll Be Here At Closing Time”(コレはアルバム音源の方が良かった)も含めたベスト的なもの。”Little Victories”のような新しい曲もあった。
今回は買うなら日本盤かな。イーグルス再々結成時のリード・シングルとして取り上げられた”How Long”やイーグルスとの共作”Hearache Tonight”がボーナス収録されているから。どちらも本編よりも勢いのあるバンド・ヴァージョンで声も良く出ている気がする。なぜ本編に収録されなかったのだろう? 解説はAOR系では最高峰のライター、金澤寿和さんだがカントリー・ロックものはそんなに強くないのかな、と言う印象を感じた。
“How Long”をイーグルスが取り上げた時、JDに一切の連絡がなかったというのは寂しい限り。元々イーグルスに提供するために作った曲だったようだけれど。今作にイーグルスの面々が友情参加、なんてのがあっても良さそうなものだけれど。