/ 息吹 ( Columbia COCP-34852 / 2008 )
4月から、怒涛の日々。レコは増えるんだけど、ブログを更新する余裕もなく、情けない限り。
さてさて、こちらの新作。最高傑作でしょう。文句ナシ。生田敬太郎の集大成とも言えるスタジオ盤。エレックでのデビューということもあって、”この暗い時期にも”に代表されるフォークシンガーとしてのイメージが先行してしまって、なかなかこの人の黒っぽい側面が理解されないままで来てしまった。まあそれでも三保敬太郎にアレンジを任せた『24+37』とか、当時エレック近辺でスタジオミュージシャンをしていたチャー(竹中尚人)や細野晴臣、林立夫らをバッキングに迎えた『風の架け橋』だとか、フォークなんて枠にハマらない独自の音楽性を披露してはいたワケだけど、なんだか着地点が見つからないと言ったらいいか、掴み所のない感じもしていた。斉藤哲夫と共演した近作もフォーク寄りの仕上がりだったし。
しかし、この作、とうとう吹っ切れたと言いますか。ファンク、ソウル、ブルーズに焦点を合わせて、かなりイカした音作りに成功している。矢井田瞳バンドのドラマーやWARの日本人メンバーとして活躍するハーピストTETSUYA NAKAMURAを迎えたバッキングも質が高い。
前半のファンキーな3曲、M-1”Try your king”、 M-2“反吐が出そう/不忘探”、英語詩のM-3”Life is on your side”で盤の精度を確信。デビュー当時から変わらない説教節は健在。後半に集められたバラードではM-10”Forever”が白眉。ラテンでハッピーなM-12”Lie”なんてのも今までにない作風で、彼の充実を思い知る。
本作をリリースしたコロンビアと言えば、1998年に元古井戸の加奈崎芳太郎のこれまた集大成的な名盤『さらば東京』がリリースされたことを思い出す。思い起こせば2002年、加奈崎の武蔵野ライブの企画に加わらせてもらったことがあったが、その時のゲストが、生田敬太郎!80年代に活動するもレコーディングを残さなかったデュオ、「K2ユニット」を加奈崎と共に結成していたことは余り知られていない。
終演後、三鷹の飲み屋で、生田さんから聞いた色々なお話が忘れられない。あの「およげ!たいやきくん」のオリジナルシンガーだったにも関わらず、子門真人版でヒットしてしまった話とか、古井戸から仲井戸麗市(チャボ)を引き抜いたばかりのRCサクセションにリズムギター&コーラスとして数ヶ月在籍していたけど、声が大きすぎると言う理由で忌野清志郎に疎まれてクビになった話とか。RCのエピソードなんて、彼らの正史から抹殺されてるよね…
まあいずれにせよ、時代に、業界に翻弄された生田敬太郎からこんな素敵な新譜が届くなんて。素直に喜びたいと思う。
さて、本作、りりィ、シバ、茶木みやこ、野澤享司!の新作と共に「フォークの匠」シリーズからのリリース。シバの盤もなかなか良かった。