/ Still The Same…Great Rock Classics of Our Time ( J-Records 82641 / 2006 )
ここの所日本でも徳永英明とか数年前の井上陽水とか、オリジナル楽曲に拘りを持ってきたアーティストによる懐メロカバー集ってのが相次いで企画されてます。この流れは、かつてからもちろん見られたもの。ただし、そもそもはあくまで楽曲に恵まれなくなった実力派歌手の仕事であったわけで、大御所と言われるレベルのボーカリスト、しかもビートルズ以降、自作自演を矜持としてきたロック(ポップと言うより)フィールドに属する大御所がカバーに手を染め始めると言うのは90年代以降の傾向。これは文学にしても映画にしても芸術全般の諸分野において、オリジナルを茶化すパロディが一世を風靡した80年代を経て、もう新しい表現形態が出尽くしてしまったことによるものでしょう。ある意味禁じ手だったんだが。
そういうことで言うと、ジェフ・ベック・グループやフェイシズなんかでバリバリ70年代ロックの最前線にいたロッドさんは変わり身が早かったミュージシャンの代表格。まあイギリスの芸能界では「ケチ」さがネタになってもいますが、その歳を重ねても変わらぬゴージャス感が郷ひろみと同様の存在感を誇っているわけで、ロック歌手としての拘りなんてコレッぽちもないんでしょうし、ガンで喉を手術したせいで声が思うように出なくなったこともスタンダード集に向かわせた一因と思われます。
4作出したスタンダード集『The Great American Songbook』シリーズ、しかしバカ売れしました。毎回豪華ゲストも絡み、極上の仕上がり。プロデュースはアリスタレーベルでバリー・マニロウを育てた王道ボーカリスト好きのクライブ・デイヴィス、B.J.トーマスやバリー・マンとの仕事で名作を残し、自身も90年代に入りジャズボーカリストとして大成功したスティーブ・タイレル、そしてリチャード・ペリー、ビリー・ジョエルらを手がけたフィル・ラモーン…。
今回の新作は同様のプロダクションで70年代〜80年代のポップ・ロッククラシックスを歌うという企画。(プロデュースはジョン・シャンクスでクライヴは後見人) 絶対これもシリーズ化するつもりだと私は踏んでいます。商魂逞しい人達です。
さて、冒頭CCRのM-1”Have You Ever Seen The Rain(雨を見たかい)”なんかはソウルフルなロッドのボーカルに合わせた嵌り曲。オリジナルに即したアレンジで。同じくイーグルスのM-9”The Best Of My Love”なんかも、しゃくりあげるような細く高い歌声がドン・ヘンリーと被ってなかなか。ディランのM-10”If Not For You”やエヴァリーのM-11”Love Hurts”、デヴィッド・ゲイツとクリソツに歌い上げるブレッドのM-12”Everything I Own”、ラストのヴァン・モリスンM-13”Crazy Love”ではアクースティックな音楽との相性の良さを見せ付ける。ただし、音はそこまでアクースティックでもなく、悪く言えば装飾過多で豪華な音になってますが。通して聴けば”Crazy Love”が一番沁みたかも。
そうそう、M-8”Father & San”はイスラム教に改宗してしまったためクレジットはユセフ・イスラムになってますがキャット・スティーブンスの曲。伸びやかな歌声がかなり良い。他はエルヴィン・ビショップのM-2”Fooled Around And Fell In Love”、プリテンダースのM-3”I’ll Stand By You”、ボブ・シーガーのM-3”Still The Same”、バッドフィンガー!のM-6”Day After Day”(これは無茶苦茶良かった)、ジョン・ウェイトのM-7”Missing You”を収録。そう言えば、収録が予定されていたジャクスン・ブラウンの”Doctor My Eyes”はどうなったのか??まさか日本盤ボーナスか?どうでもいいけど、日本盤ボーナスはセコイからやめて欲しいものです。まだ発売されてませんが、UKのボーナストラックは"Lay Down Sally"。熱心なファンの方はお買い求めを。私はそれほどでもありませんが。
ライナーのラストを見るとこの盤、ロング・ジョン・ボールドリーに捧げられてました。