/ Same ( V2 1040182 / 2006 )
昨年末よりフランス盤をアマゾンで見かけていたものの、なぜか4300円位したため買うのを躊躇っていたクリス・スティルスの2枚目。ワールドリリースと相成ったせいか、曲順やジャケも新装されているが、やっと安価で入手可能に。改めてアップで見るクリス、若かりし親父の生き写しですね。ダーニ・ハリスン程ではないが。
クリス・スティルス。
ロック・レジェンドの一人、クロスビー・スティルス&ナッシュのS・スティルスとヴェロニカ・サンスンとの間に出来た息子、と説明されるのは免れ得ない。Ethan Jonesプロデュースの前作『100 Year Thing』(1998年、CSNと同様アトランティックからのリリース)は嫌でも親父を彷彿とさせる最高の仕上がりで、アクースティック・ギターの空気感をうまく詰め込んだ大名作だった。何しろデビュー盤リリース時のエピソードにあったが、子供の頃からスティルス・チューニング(スティルスが好んで用いた1、6弦をドロップDにチューンしたもの)されたギターが自宅に置かれていたので、ギターってそういうものだと思って弾いていたって言うんだから、そりゃ親父みたいな曲が出来ますわなという感じ。お世辞抜きに、ボブ・ディランの息子ジェイコブ・ディラン率いるウォール・フラワーズの『Bringing Down The Horses』と共に、90年代後半に産み落とされたロッククラシックスの一枚となった。
ということで期待を膨らませて聴くと、裏切られる。正直前作のテイストを残したものはカリフォルニア望郷歌M-11”Sweet California”のみ。これはアコギの弾き語りの素晴らしい一品。スティルスのファーストに混ぜても判らない様な仕上がりで、裸のレコーディングでは隠せない親父の血。またこの曲、ザ・バンドの名曲”The Weight”のフランス語ヴァージョン”Fanny (The Weight)”がシークレットトラックとして入っている。フランス盤では別の1トラックとして扱われていたのだが、ワールド盤では流石に恥ずかしくなって隠したのか。息子スティルスに親父と同じウッドストック世代の大名曲を歌わせたい、という親父ファンの欲望を満たす一曲ですからね。そう言えばアメリカのテレビか何かで放映された音源で、ジェイコブ・ディランが歌う”The Weight”ってのもありました。でもこのクリス版、いいですよ。歌いまわしはファルセット交えたリック・ダンコのパートまでオリジナルを準完コピ。最近出たクリスのライブ盤『When the Pain Dies Down: Live in Paris』にも入っている。
あとは、正直余り印象に残らなかった。オーバープロダクションでしょう。まあ「前作からイメチェンしたい」って言う息子の気持ちもワカランでもないが、ジェイムス・テイラーとカーリー・サイモンの息子ベン・テイラーの盤もイマイチ冴えず、親父似の歌声でホノボノ歌ったビートルズ”I Will”のカバーが一番良かったりするわけで。これからも続く2世の苦労には同情。
もちろん情熱的なカッティングで叫びを聴かせるM-1”Landslide”、ピアノでしっとり聴かせるM-2”When The Pain Dies Down”もけして悪くはない。フレンチで歌われるM-3”Kitty Cathy”、M-4”For You”、M-8”Demon” (これはStephan Eicher作)では母の血脈を、売れ筋ポップロックM-6”Flying High”ではチャートへの確かなる意思を確認。M-10”Golden Hour”では本作Hod Davidのプロデュースワークと前作のプロデューサーEthan Jonesの生音への拘りとの違いが浮き彫りに。
まあクリスのCDを買ったファンの多くは、ヴェロニカ・サンソンのLPは1度だけ聴いて棚の中にしまっていることも少なくないわけで、フランス盤ならともかく、ワールド盤ならもっとスティルス寄りにシフトしておくべきだったかも。私なんかにそんな苦言を呈されてしまう2世の苦労には重ね重ね同情。
P.S.ちなみにクリスのライブ、"Love The One You're With"を歌うと盛り上がるそうです。