/ Gypsy Moth (Barnaby 15003 / 1972)
“Gypsy Moth”とはマイマイガのこと。何とも不吉なタイトルとフォーク系SSW然としたジャケに、暗い音を想像しなくもないが、まろやかなボーカルとセンスの良い音作りに感服する。プロデュースは2曲を除いて元The Kingsmen〜Don & The GoodtimesのキーボーディストDon Gallucci。本盤ではキーボードも弾いている。
A-1”Friends”が初っ端から何と言っても素晴らしい。アコギのハーモニクスとキレイなギターソロがメジャーセブンスに乗って流れてくる。2番からキーボードが入ってくるあたりのさりげなさが何とも良い。Bat McGrath&Don Potterあたりと場の雰囲気を一変させる感触は似ている。A-2”Somebody Walks Beside Me”もキーボードのアレンジが良く、この人の本質がアコースティックギターの弾き語りであることを忘れさせてくれる。A-3”Mary”は達者な3フィンガーの一曲だが、幻想的なコード進行に魅力がある。スティールが不思議とボーカルと良く溶け合っている。タイトル曲A-4は一転ピアノをバックに切々と聞かせる。神への祈りのようで、Art GarfunkelがJimmy Webbのクリスマスアルバムで聞かせた世界にも近いか。A-5”Answer in the Rain”は急に世界がカントリー風味になるのであれれ、と思わされるが、それもそのはずでナッシュビル録音。あのLarry Murrayのプロデュースだ。本盤では他にB-4”Safely Home Like A River”がLarryのプロデュースだ。
さて裏を返すと、B-1”Tumbleweed”はDoug Van Arsdaleの作。何者かは全く不明だが、ピアノとコーラスが美しいミディアムバラード。この曲にしてもこの盤、”Oh Lord”や”Jesus”がやたらと出てきます。B-2”Caroline”はStephenが3フィンガーによる弾き語りで、サラッと歌う。2番からはスティールとベースが実にいい感じで滑り込んでくる。B-3”Mornin’ Sun”はCarla(Karla) Bonoffの初期の作品。本作で最もポップな作品で、彼女がLindaRonstadtのアルバムへの曲提供以降、真価を発揮した70年代後半に作ってもおかしくない爽やかなウェストコーストロック風の曲。この時既に作風が完成されていたとは驚くべき。未発表のアルバムを残しているBryndleのメンバーからCarlaの他にアコギ・エレキでAndrew Gold、マンドリン・ハーモニカ、ベースでKenny Edwardsが参加しているのも特筆すべき。ちなみにKarla、Kenny、AndrewにWendy WaldmanのBryndleはかつて発表できなかった鬱憤を晴らすように1995年に同名のアルバム、2001年に”House of Silence”を発表しているが、どちらもアコースティックで透明な音作りに拘った、コーラスも映える素晴らしい作品。前述のB-4はDavid Powell作。彼はA-5もStephenと共作していた。アコギ・キーボードで作者本人も参加している。B-5”Sweet Turnstyle Blues”はハネたリズムが洒落ていて、キーボードソロもごきげん。
Stephen自身の作は本盤のみとなってしまったが、トータルで出来が良く、何度も針を落としたくなる名盤だ。
全然関係ないが、Lovin’ Spoonfulのあの人が今春待望の来日をするという噂アリ。近年ジャグバンド名義のCDも発表していたが、彼に勝るとも劣らないジャグの大物と一緒の来日とあって期待して待つべし!