/ Same (Bluenote 97350 /2005)
昨年出た新譜で忘れられないのが、“元小学校教師”というなんだか音楽とは全く関連性を見出せない肩書きをつけられてしまったAmos Leeのデビュー盤。アメリカ音楽好きを十分に唸らせる良質のアコースティックSSW盤だった。渋い歌をやっている彼が世に出れたのはもちろん2002年のNorah Jonesの成功あってのもの。同じBluenoteレーベルから出たもので、プロデュースはNorahを公私共に支えるバンドのベーシスト、Lee Alexanderその人だ。(本作ではベースも担当)とにかく渋い。35分間、無駄な音が全く無い。男Norah Jonesというのも頷ける。曲は全てAmosの自作で、彼の弾き語りが音の基底にある。
M-1”Keep It Loose, Keep It Tight”から、嫌味の無い哀愁を帯びた歌声が飛び出す。余りにNorah Jonesしてるなと思ったらPianoはNorahだった。いい曲。M-2”Seen It All Before”は、明らかにディラン”天国の扉”風なのだが、ハモンドが薄く入る辺りが悪くない。Bill Withersとの相似を語る向きもあるようだが、Billの方がアコギを抱えているとはいえずっと黒っぽい。沁みるM-3”Arms Of A Woman”に次ぐM-4”Give It Up”はファンキーなアコギのカッティングが確かにBill Withersっぽいが、ボーカルがさほどねばっこくないので聴きやすい。M-5”Dreamin’”はスローなブルース。M-6”Soul Suckers”はファルセットを交えたバラードだが、メロディが美しい。チェロとストリングスがそのメロディを引き立てるが、なんて音数が少ないのだろうか。ストイックな音作りが、余計に心を打つ。M-7”Colors”ではまたNorahが参加し、ふんわりとしたバッキングボーカルを聴かせる。M-8”Bottom of the Barrel”は跳ねた3フィンガーで現代版ミシシッピ・ジョン・ハートのようなノリ。その古びた雰囲気を出すべくマンドリンを入れているのは、アメリカの大地に深く根ざした芳醇な音楽的ルーツを吸収した彼の隠し味か。とはいえ、ルーツの小出しゆえか2分と短い曲。M-9”Black River”はゴスペルの雰囲気。祈りの空気が充満するが、アコースティックギターを使っているせいで、James Taylorのクリスマスソング集の音を思い出した。ちなみにJames Taylorが昨年発表したクリスマスソング集はとんでもなく見事な出来。Hallmark店舗での限定発売で、日本の市場で手に入れるのは困難だが、直輸入等の手段で手に入るので是非とも聴いておきたい(そのクリスマスアルバム未収録だがジョニ・ミッチェル作の一曲”River”はJamesの公式ホームページから無料ダウンロードできる)。M-10”Love in the Lies”はバンドサウンドが目立ち、本作で最もコマーシャルな作りだが、彼の個性は全く揺らがない。エンディングM-11”All My Friends”はゆったりとしたリズム。心の痛みを癒す歌声で迫る。ここまでさりげない曲が続いてきたが、それだけに何度も味わいたくなる一枚になっている。
ところでNorah Jonesが世代を超えて受け入れられたというのは特筆すべきだと思う。ラヴィ・シャンカールの娘だったためオールドロックファンに興味を持たれた、というわけではないだろう。彼女がルーツとする音楽が、レイ・チャールズにウィリー・ネルソン、ニーナ・シモンやボブ・ディランなど、黒だ白だとか、ジャズだソウルだロックだとかいうジャンルを超越したアメリカ音楽とでもいうべきものだったことが、幅広い世代に支持される理由だと思われる。新しい音楽が生まれにくい(もう生まれないかもしれない)現代では、いかにその背後に深い音楽的ルーツや歴史を感じさせるか、ということが重要になってきてもいる。ちなみにNorahの”Don’t Know Why”を書いたことで注目されたライターJesse Harrisだが、Ferdinandosを率いたリーダー作などとても良い。しかしへナっとした歌はイマイチと思う人もいるかもしれない。その点Jesse HarrisがRebecca MartinとのデュオOnce Blueとして1995年に出した同名のアルバムは、Rebeccaのちょっと舌足らずだが伸びやかなボーカルと、Norahに曲提供して話題になってからの近作と全く変わらなくて驚かされるフォーキー・ジャズな世界観に満足は120%。いいものは時を越えても残る。