*[SSW] Roger Miller / A Trip In The Country (Mercury / 1970)
カントリーの大御所ロジャー・ミラー。シンガー・ソングライターの草分けとしての足跡もある。1992年に惜しくも亡くなっておりますが。こちらは1970年にマーキュリーから出たアルバム『A Trip In The Country』。マーキュリーからはこの1枚だけ。タイトル『A Trip In The Country』と聞けば、カントリーのスタジオ・ミュージシャンが超絶テクを披露したあのArea Code 615の傑作セカンド『Trip In The Country』を思い出すけれど、同じ1970年リリース。ロジャー・ミラー盤には、Area Code 615に参加したチャーリー・マッコイやバディ・スパイサーがいる。
ロジャー・ミラーの『A Trip In The Country』が興味深いのは、大滝詠一が1997年のナイアガラ・リハビリ・セッションで取り上げた”Tall, Tall Trees”と”Nothing Can Stop My Love”が収録されていること(2016年の大滝のアルバム『DEBUT AGAIN』(デビュー・アゲン)の初回ボーナスCDに収録)。
大滝さんの濃密なラジオからはルイジアナ・ヘイライドのこととか、色々教わったのだけれど、エルヴィスの産湯を浸かったという彼が、アメリカン・ポップス探究の途上にて、日本人があまり関心を持ってこなかった部分のカントリー・ミュージックを当時一つのキーワードとしていたことは間違いないと思う。私自身も特にアメリカの音楽を熱心に聴いてきたわけだけれども、カントリーはあきれるほどに奥が深い。カントリーそのものな50年代のロックンロールはもちろんだけれど、大滝が惹かれていた60年代前半のアメリカン・ポップス(リッキー・ネルスンあたりがわかりやすい)、そして70年代の一般的なアメリカン・ロックやAORなどと言われる音楽、さらにある種のソウル・ミュージックだって、その実はカントリーだということに気が付く。え?と思う人がいるかもしれないけれど、雑食の音楽ファンならわかってもらえると思う。大滝のとぼけたユーモア感覚や言葉遊びやオチのセンス、いわゆる「ノリ」の部分にカントリー仕込みの感性がみられるような。しかも、『A Trip In The Country』がリリースされた1970年は、はっぴいえんどがデビュー・アルバム『はっぴいえんど』(ゆでめん)をリリースした年でもあったわけで。この辺りの円環とリハビリ・セッションの選曲を深読みしてみるのも面白い。
ただしその後、人気は凋落して、レコード会社との契約は切れる。きっと苦労もしたはずだ。大学生になりたての頃だったか、1998年に『Photograph Smile』というパーソナルな作品が久々にリリースされて、Avexの日本盤が新譜レコ屋でも結構プッシュされており、買いました。それを聴いてビックリ!これは天才だと思いました。ジョンで言うところのプライマル・スクリーム療法ではないけれど、父に捨てられた自身の不幸な出自と隠し切れないビートルズの幻影と戦う内省的な作風に、一気にファンになってしまった。”Day After Day”がとにかく素晴らしい曲!2世ミュージシャンの括りでいまだに語られるのは不幸だとも思う。2世で首相補佐官になったどっかの人とはデビュー時に持つ資質は違っているものと想像されます。知らんけど(笑)
新作に話を戻すと、プロデュースはジュリアン自身と彼のバンドのギタリスト、ジャスティン・クレイトン。10曲の内すでに4曲はYouTubeで先行配信されていた。冒頭”Save Me”、”Freedom”や”Stay”あたりはジュリアンの真骨頂かと。”Love Don’t Let Me Down”なんていうビートルズ引用もあるから、すでに吹っ切れてる部分はあるのかも。ポール・マッカートニーが哀れなジュリアンのために作った”Hey Jude”をアルバム・タイトルに持ってきているくらいだし。メロディで言うと、”Not One Night”やOasisっぽいブリット・ポップ風味を現代的に展開させた”Lucky Ones”が印象的だった。ラストの”Gaia”はジュリアンと同時期に世に出たブルー・ナイルのポール・ブキャナンがゲスト参加している。LPは、針飛びを恐れてかわからないけれど、少々音圧低めの印象もあったが、ジャケのトータルの雰囲気はデビューから3作目までのモノクロを踏襲しており、とてもよい。
2枚目はTAKESHI TERAUCHI AND HIS BLUE JEANS『SCREEN MOOD ON THE ROCK(スクリーン・ムード・オン・ザ・ロック)』。コレ、調べてみると1963年に東京・キングレコードからリリースされた、寺内タケシとブルー・ジーンズ(ジャケ裏の解説では「寺内タケシとブルー・ジンズ」と表記)初のLPとのこと。背表紙に寺内やブルー・ジーンズの表記はないから、お店なんかでBGMとして使われた、ロックで映画音楽を演奏するムードものの一つだったのだろう(選曲は出演していたジャズ喫茶のお客さんのリクエストらしい)。ヴェンチャーズの”Walk Don’t Run”(ジャズ・ギターのジョニー・スミスの曲ですね)、そして”Jailhouse Rock(カンゴク・ロック)”に始まり、“High Noon(ハイ・ヌーン)”(『真昼の決斗』)、”Mack The Knife(匕首マック)”(『三文オペラ』)、”The Third Man Theme(第三の男)”などを収録。解説のメンバーに含まれていないけれど、ジャケットの演奏写真(日劇ウェスタン・カーニバルか?)にはボーカルの ほりまさゆき と、後にワイルドワンズを結成する加瀬邦彦も写っている。
さて、そんなわけで、注文していたことを忘れていた大滝詠一の7インチシングル『夢で逢えたら / FUN×4 』を。アナログ化ってことで言うと、2018年の『EIICHI OHTAKI Song Book III 大瀧詠一作品集Vol.3「夢で逢えたら」』が先行。こちらは4枚組まで出たCDから、5曲を抜粋したものだった。
*[ジャズ] The Manhattan Transfer / Same ( Atlantic / 1975 )
邦題は『デビュー!』と銘打たれているけれど、アトランティック移籍後のマンハッタン・トランスファーの「再」デビュー作。アダム・ミッチェルがプロデュースした1971年のデビュー盤からメンバーは3人変わって、ティム・ハウザーだけが残った。ところで1971年盤『Jukin’』はキャッシュマン、ピスティリ&ウェストのジーン・ピスティリが加わって、The Manhattan Transfer And Gene Pistilli名義でのリリースだった。ちなみにキャッシュマン&ウェストはジム・クロウチのプロデュースで名をあげ、Cashwestプロダクション、Lifesongレーベルを立ち上げ、自らのデュオのレコードはもちろん、ディオン、ヘンリー・グロス、ジム・ドーソン、ディーン・フリードマンなどのプロデュースで一世を風靡した。
話を戻してマンハッタン・トランスファーの「再」デビュー、レコードは良音ですね。両面それぞれ”Tuxedo Junction”と”That Cat Is High”に始まる正統派の男女×2のジャズ・コーラスものなんだけれど、ロック世代にもアピールする作りになっている。ジャズのみならずドゥ・ワップ”Gloria”、”Heart’s desire ”を演る幅広さがあるのが、ママス&ザ・パパスがジャズを演ってみたような世代感覚。ジャズにありがちな原理主義を廃した感性は、後年ジェイ・グレイドンのプロデュースで大化けする下地にもなっている。90年代はフランキー・ヴァリともデュエットしてたっけ。日本で言うと1年先んじた1974年にデビューしたハイ・ファイ・セットとか、サーカスあたりが同じ感覚を持っていたような。セッションマンではジェイムス・テイラーのバックでも後に活躍するドン・グロルニックや、リチャード・ティー、フィフス・アヴェニュー・バンドのマレー・ワインストック、マイケル・ブレッカー、ズート・シムズらが参加。ギタリストとして大活躍しているアイラ・ニューボンとメンバーが共作した”Clap Your Hands”のソウル感覚も堪らない。あとは”Candy”のノスタルジックな感じも最高。日本のシティ・ポップものにも、必ずこういうノスタルジック路線が入ってますよね。
全曲試聴はココをクリック 収録曲「東京」PVはココをクリック 【Tower Records特典】(新宿店・吉祥寺店少量限定)
5曲入CD-R(MASH RECORDS MASH-005 Year : 2015)
アルバム未収録の洋楽カバーを収めた全5曲の特典盤!!
1. God Only Knows(The Beach Boys)
2. I'd Really Love To See You Tonight(England Dan & John Ford Coley)
3. Laughter In The Rain(Neil Sedaka)
4. Danny's Song(Loggins and Messina)
5. Universal Soldier(Buffy Saint-Marie)
収録曲「I'd Really Love To See You Tonight」PVはココをクリック
■ミュージックマガジン2014年10月号行川和彦の“りある”インディ盤紹介 Do It Yourself!にいしうらまさゆき3rdアルバム『語りえぬものについては咆哮しなければならない』レビューが掲載されました
■CDジャーナル2014年9月号に いしうらまさゆき3rdアルバム『語りえぬものについては咆哮しなければならない』レビューが掲載されました ココをクリック
■レコードコレクターズ2014年9月号ニュー・アルバム・ピックアップに いしうらまさゆき3rdアルバム『語りえぬものについては咆哮しなければならない』レビューが掲載されました 「つくづく生まれてきた時代を間違えてんじゃないかと思う。今回のアルバムも、70年代的なイディオムがたっぷりとつめ込まれている。あらためて思うがフォークは風刺であった。真正直に言ったらシャレになんないよ、といった事柄を自虐と諧謔を込めて歌にする。この伝統的な遺伝子が、いしうらまさゆきには備わっている。相変わらずどこか稚拙でヘナチョコなところがあるけれど、でも圧倒的に彼を支持したくなるのはその部分だ。ニューオーリンズのR&Bを匂わせる曲があったり、ラッパーのEARVIN(ウリフターズ)と組んだフォーク・ラップがあったりもするのだけれど、そういった新しさが奇妙なほど斬新に響く。カラ元気のように吉田拓郎や岡林信康の名前が登場してくる「愛すべき音楽よ」や「路上から On The Road」などを聞いているとすべての苦悩や杞憂や絶望を、自身の細腕で何とかしようと頑張ってる一途な姿が浮かんでくる。たぶん君は時代を変えられないかもしれないけど、でも僕は君のことずっと好きでいるよ。」(小川真一)
■いしうらまさゆき
3rdアルバム『語りえぬものについては咆哮しなければならない』
MASH RECORDS MASH-002
Distributed by VIVID SOUND
2014年7月20日発売
定価2160円(tax-incl.)
購入方法はココをクリック
"無(ゼロ)の季節"、"しょうがない (feat.EARVIN)" 、"日本(ニッポン)の繁栄"、"愛すべき音楽よ"、"路上~On The Road 1995.3.20"、"永遠のリズム"…他 全14曲!!
全曲試聴はココをクリック
■ミュージック・マガジン2013年2月号行川和彦の“りある”インディ盤紹介 Do It Yourself!にいしうらまさゆき2ndアルバム『愛すべき音楽よ』レビューが掲載されました
■『TRASH-UP!! vol.14』
2013年1月発売 MUSIC REVIEWにいしうらまさゆき『愛すべき音楽よ』レビューが掲載されました。
■いしうらまさゆき
2ndアルバム『愛すべき音楽よ』
MASH-001
2012年11月1日発売
定価1000円(tax-incl.)
(MASH RECORDS)
購入方法はココをクリック
"青春DJ"、"ねがい"、"僕は君と…"、"愛すべき音楽よ"他 全17曲!!
吉祥寺オリエンテッドな中央線フォークを歌い継いできた、いしうらまさゆき2枚目となるフル・アルバムが堂々のリリース!プロデューサー馬下義伸とがっぷり四つに組んだ今作は、「音楽愛」をテーマにビートルズ、ビーチ・ボーイズ、ボブ・ディラン、CSN&Y、S&G、はっぴいえんど といった音楽的ルーツを下敷きに、ロックの感性で弾きつくし、歌い尽くした快作!!全編ポップなメロディに飄々とした批評精神が横溢。毎日欠かさずレコード屋に通い続ける音楽バカだからこそ歌える、音楽を愛しすぎた故の嘆きでもあり希望!…愛すべき音楽よ、一体どこへ行こうとしてる??(イラスト&デザイン Daniel Kwon)
<この商品はCD-Rです。自身による詳細な解説を加えた特製ブックレット付属!!>
■ミュージック・マガジン2012年1月号行川和彦の“りある”インディ盤紹介 Do It Yourself!にいしうらまさゆき『蒼い蜜柑』レビューが掲載されました
「79年に東京で生まれたシンガー・ソングライター、いしうらまさゆきのデビュー作『蒼い蜜柑』(カゼ KAZE015)は、元ピピ&コットの金谷あつしがプロデュースした約26分6曲入り。社会性も帯びた歌詞や朗々とした歌唱も含めて70年代初頭の日本のフォークへのオマージュも感じられるが、ノスタルジーに終始することにより発するカビ臭さはなく、くるりや山本精一との接点も感じる現在進行形の日本のフォーク・ロックとして楽しめる。いわゆるシスコ・サウンド風の艶やかなエレクトリック・ギターとほのぼのしたバンジョーも挿入し、井の頭公園とその入り口をアートワークに使っている、東京・吉祥寺の都会的な土臭さが染み出たCD。」
(行川和彦)
■いしうらまさゆき
1stアルバム『蒼い蜜柑』
KAZE-015
2011年9月15日発売
定価1500円(tax-incl.)
(KAZEレーベル)
購入方法はココをクリック
一方、1999年には大学時代の友人とコミックフォーク・デュオ「うず」を結成し、ソニーミュージックエンタテインメントのコミックソング・オーディションに合格。とりわけバブルガム・ブラザーズのBro.Tom氏に気に入られ、『Live on TV 原石』(テレビ東京)、『ピンク・パパラッチ』(日本テレビ)などに出演。以後もブルースターレコードにお世話になりながら、ソロで江古田マーキー、四谷コタン、中目黒楽屋、吉祥寺Be・Point、お台場Yesterday Once Moreなどのライブハウスに出演。