*[ジャズ] The Manhattan Transfer / Same ( Atlantic / 1975 )
邦題は『デビュー!』と銘打たれているけれど、アトランティック移籍後のマンハッタン・トランスファーの「再」デビュー作。アダム・ミッチェルがプロデュースした1971年のデビュー盤からメンバーは3人変わって、ティム・ハウザーだけが残った。ところで1971年盤『Jukin’』はキャッシュマン、ピスティリ&ウェストのジーン・ピスティリが加わって、The Manhattan Transfer And Gene Pistilli名義でのリリースだった。ちなみにキャッシュマン&ウェストはジム・クロウチのプロデュースで名をあげ、Cashwestプロダクション、Lifesongレーベルを立ち上げ、自らのデュオのレコードはもちろん、ディオン、ヘンリー・グロス、ジム・ドーソン、ディーン・フリードマンなどのプロデュースで一世を風靡した。
話を戻してマンハッタン・トランスファーの「再」デビュー、レコードは良音ですね。両面それぞれ”Tuxedo Junction”と”That Cat Is High”に始まる正統派の男女×2のジャズ・コーラスものなんだけれど、ロック世代にもアピールする作りになっている。ジャズのみならずドゥ・ワップ”Gloria”、”Heart’s desire ”を演る幅広さがあるのが、ママス&ザ・パパスがジャズを演ってみたような世代感覚。ジャズにありがちな原理主義を廃した感性は、後年ジェイ・グレイドンのプロデュースで大化けする下地にもなっている。90年代はフランキー・ヴァリともデュエットしてたっけ。日本で言うと1年先んじた1974年にデビューしたハイ・ファイ・セットとか、サーカスあたりが同じ感覚を持っていたような。セッションマンではジェイムス・テイラーのバックでも後に活躍するドン・グロルニックや、リチャード・ティー、フィフス・アヴェニュー・バンドのマレー・ワインストック、マイケル・ブレッカー、ズート・シムズらが参加。ギタリストとして大活躍しているアイラ・ニューボンとメンバーが共作した”Clap Your Hands”のソウル感覚も堪らない。あとは”Candy”のノスタルジックな感じも最高。日本のシティ・ポップものにも、必ずこういうノスタルジック路線が入ってますよね。
ノスタルジックといえば、裏ジャケのモノクロが本作のそうした擬古調コンセプトを物語っている。先日近所のレコ屋で見つけたこの日本盤、ジャケの白が黄色く褪せているのもそれっぽかったし、左上には今は亡き永田町のナイトクラブ、ニュー・ラテン・クオーターのシールが違和感なく貼ってあった。レコードも流れ流れて。力道山の刺殺事件が起きた店でした。