*[SSW] Roger Miller / A Trip In The Country (Mercury / 1970)
カントリーの大御所ロジャー・ミラー。シンガー・ソングライターの草分けとしての足跡もある。1992年に惜しくも亡くなっておりますが。こちらは1970年にマーキュリーから出たアルバム『A Trip In The Country』。マーキュリーからはこの1枚だけ。タイトル『A Trip In The Country』と聞けば、カントリーのスタジオ・ミュージシャンが超絶テクを披露したあのArea Code 615の傑作セカンド『Trip In The Country』を思い出すけれど、同じ1970年リリース。ロジャー・ミラー盤には、Area Code 615に参加したチャーリー・マッコイやバディ・スパイサーがいる。
ロジャー・ミラーの『A Trip In The Country』が興味深いのは、大滝詠一が1997年のナイアガラ・リハビリ・セッションで取り上げた”Tall, Tall Trees”と”Nothing Can Stop My Love”が収録されていること(2016年の大滝のアルバム『DEBUT AGAIN』(デビュー・アゲン)の初回ボーナスCDに収録)。
”Tall, Tall Trees”はジョージ・ジョーンズ(1957年にシングル・リリース)とロジャー・ミラーの共作で、アラン・ジャクソンが1995年にカバーし、USカントリー・チャートで1位を記録している(プロモ映像がYouTubeで観られますが結構いい感じ)。大滝が直接興味を持ったきっかけはリアルタイムできっとそこだろう。ロジャーのヴァージョンもバディ・エモンズの痛快なスティールギター・ソロを含め、最高です。
大滝さんの濃密なラジオからはルイジアナ・ヘイライドのこととか、色々教わったのだけれど、エルヴィスの産湯を浸かったという彼が、アメリカン・ポップス探究の途上にて、日本人があまり関心を持ってこなかった部分のカントリー・ミュージックを当時一つのキーワードとしていたことは間違いないと思う。私自身も特にアメリカの音楽を熱心に聴いてきたわけだけれども、カントリーはあきれるほどに奥が深い。カントリーそのものな50年代のロックンロールはもちろんだけれど、大滝が惹かれていた60年代前半のアメリカン・ポップス(リッキー・ネルスンあたりがわかりやすい)、そして70年代の一般的なアメリカン・ロックやAORなどと言われる音楽、さらにある種のソウル・ミュージックだって、その実はカントリーだということに気が付く。え?と思う人がいるかもしれないけれど、雑食の音楽ファンならわかってもらえると思う。大滝のとぼけたユーモア感覚や言葉遊びやオチのセンス、いわゆる「ノリ」の部分にカントリー仕込みの感性がみられるような。しかも、『A Trip In The Country』がリリースされた1970年は、はっぴいえんどがデビュー・アルバム『はっぴいえんど』(ゆでめん)をリリースした年でもあったわけで。この辺りの円環とリハビリ・セッションの選曲を深読みしてみるのも面白い。