プリンスまでもが…いつかそんな日が来るような、暗い何かを感じ取れた部分もなくはないけれど。その死までもがマイケルと比較される運命なのだろうか。80年代の光と陰。彼の晩年の音楽活動はこれからまた総括されていくと思われる。
何気なく目に止まった100円レコード。カントリー・ヨーデルで知られるエルトン・ブリットの『Yodel Songs』。調べてみると1956年にリリースされた初のLPみたい。1942年のカントリー〜ヒルビリー初の国民的大ヒット曲とも言える” There's a Star-Spangled Banner Waving Somewhere”を皮切りに、1945〜1950年に11曲をカントリー・トップ10に送り込んでいる。エルトンは1913年アーカンソー生まれ。1972年に59歳で亡くなるまでに60枚ほどのアルバムをリリースしているんだとか。LP時代になって初めてリリースされたこのアルバムには”Pinto Pal”をはじめ、ヨーデル・ロックと言っても良いようなゴキゲンなサウンドが詰まっている。1956年のRCAと言えばエルヴィスを想起してしまうけれど、そんな爆発的なロックン・ロールが誕生した頃のカントリー・サウンドとしては、なかなか悪くない。ブルーズのヨーデル風翻案もあったり(”St.Louis Blues Yodel”や”St.James Avenue”)。
何と言っても本家ジミー・ロジャースに認められたというヨーデルが聴き物。ヨーロレイッヒーにも色々なバリエーションがあることを知る。ロングトーンで聴かせるバラードなんかもあって、その美声を生で聴いてみたかったと思う。日本のヨーデル・ロックと言えばはっぴい大滝の”空色のくれよん”や”田舎道”みたいなカントリー・ロックを思い浮かべるけれど、もちろん地続きのものだ。
カントリー・ソングの名楽曲を作者のコメントと共に紹介する名著と言えばドロシー・ホーストマンが書いた『Sing Your Heart Out, Country Boy』だろう。1975年に初版が出た本で、手元にあるのは1996年の第三版。日本語訳はまだ出ていないので、むかしアメリカから古本で取り寄せた。そこにエルトン・ブリット最大のヒット” There's a Star-Spangled Banner Waving Somewhere”が「戦争と愛国心の歌」という章に登場している。曲のクレジットはボブ・ミラー(シェルビー・ダーネル)とポール・ロバーツということになっているけれど、ポール・ロバーツ本人の言によると、ボブ・ミラーはパブリッシャーで一切曲作りに関わっていないとのこと。『Yodel Songs』収録のヒット、”Pinto Pal”の作詞作曲にもボブ・ミラーのクレジットがあったけれど、この人は商人ということですね。さらにこの曲、ラッキー・ストライクがスポンサーになったあの名プログラム「Your Hit Parade」で初めて取り上げられたヒルビリー・ソングなんだとか。この辺はプア・ホワイトのヒルビリーが黒人のリズム&ブルース同様、レベルの低い芸能として見られていた時代背景があるだろう。さらに、戦時中の愛国ソングであるこの曲、戦争で手足が不自由になった、と歌う箇所があったため、ポールがステージに立ったとき観客は本人もきっとそうなのだと思いこんでいたみたい。まあこうした戦意高揚ソング、同時代的なものなら好きになるはずもないけれど、戦前のエピソードとしては興味深かった。ちなみに昨2015年に発売されたゲーム『Fallout 4』にエルトンの”Uranium Fever”が使われているとのこと!