*[ロック] John Mayer / Sob Rock ( Columbia / 2021 )
もう本日30回ぐらい聴いたかな…というジョン・メイヤーの新譜『Sob Rock』。ジャケット見て笑っちゃいました。完璧な80年代仕様。YouTubeで”Last Train Home”を聴いてみると、シンセがまさに”Africa”時代のTOTOそのもの。しかもTOTOに参加しているキーボーディストのグレッグ・フィリンゲインズとパーカッションのレニー・カストロもいるという。マレン・モリスがゲスト参加する後半のコーラスも良い感じ。こりゃ仕掛け人は誰だろうと思ったら、メイヤー自身とドン・ウォズでした。ドン・ウォズはボニー・レイットやディランのプロデュースで有名になりましたが、近年はブルーノート・レコードの社長をやりつつ、ストーンズ、ブライアン・ウィルソン、グレッグ・オールマン、ライアン・アダムスなんかをプロデュースし、やりたい仕事でルーツ回帰している模様。ストーンズが混じっていたとしても、ある種の広義のアメリカーナなんですよね。ジョン・メイヤーもそこに違和感なく含まれる。ドンは見た目がデッドのジェリー・ガルシア化していると思ったら、ボブ・ウェアの現行バンドのメンバーにもなっていた(ジョン・メイヤーも現行デッドとアルバムのツアーをやるみたい)。
話を戻って、このジョン・メイヤーの新作。アナログで買ったんですが、YouTubeで聴きまくってたのとまた印象が変わりまして、音良いですよ。ってかフェティシズム的なつくりですよね。レーベルはしかもコロンビア。シュリンクにシールが貼られた、薄手の輸入アナログでいうと、中古で450円ぐらいで売ってたような…あの感じ。もう最高ですよね。カセットも往年のコロンビアのつくりで出しているみたいだし、Spotifyで見かけたのはであの「Nice Price」が貼られたやつ!いやはや、ノスタルジーを刺激する仕掛けが素晴らしい。タイトル『SOB ROCK』もセンスがいい。Sobはすすり泣くという意味なのだけれど、私なら『涙ちょちょ切れロック』と訳しますね(笑)
地味と思う人もいるかもしれないけれど、聴き続けていくと、おそろしく練られた普遍性をもつサウンドとメロディだとわかる。そして涙がちょちょ切れるという。歌モノの体裁ながら、ギターは要所要所、弾きまくってます。ピノ・パラディーノが参加した”New Light”にはa-haの”Take On Me”とか、歌詞にはキング・ハーヴェストの”Dancing In The Moonlight”が含まれていると思ったり。マレン・モリスがハーモニーをつける”Why You No Love Me”はエア・サプライの”Even The Nights Are Better”のリズムパターンが隠し味になっているような。”Wild Blue”はマック・ノップラーのダイアー・ストレイツとJ.J.ケイルを混ぜたようなクールなテイストで。そして”Shot In The Dark”はサビ後ろがバックストリート・ボーイズの”I Want It That Way”のメロディを彷彿とさせつつ、サウンドはエイティーズな切ない名曲で…
アルバムの文脈を説明するとき、「ヨット・ロック」というキーワードが出てくるだろう。ヨットがジャケットに出てくるような70~80年代懐メロといった意味で、日本独自ジャンルの「AOR」とは一部重なるけれど、重ならない部分もある。日本のAORはスタイリッシュとか洗練というキーワードで捉える人が多いけれど、そうした音楽はアメリカだとちょっとダサい歌謡ロックみたいなイメージがある。大好きですが寺尾聰みたいというか…コロナ禍にあって、こんな遊び心のあるアルバムが出て来たというのは、「あの頃はよかった」という参照枠としてヨット・ロック的サウンドが選ばれたということなのだと拝察する。じゃ、また聴こうっと。