/ We Can Be Everything (Perception PLP16 / 1971)
なんともあの時代なジャケに惹かれたレコード。ジョン・シムスンというシンガー・ソングライターの唯一作。サイケな匂いもあるジャケだし、アシッド風トリップ・サウンド・オンリーだと思っていたけれど、意外とポップなプロダクションの曲もあって好感を持った。もちろんアシッドな感じの曲もあったけれど。
A-1”Humboldt County”なんてソフトロックの範疇に入れても良いような。この曲、ジミー・ウェッブのファーストの雰囲気に似ているな、と。リリース時もまさに同じ頃。B-5”Good Night Lullabye”もその感じ。クレジットを見てみると、この曲を含む3曲がジミー・カーティスのプロデュースによるニューヨーク録音で、残り7曲はテリー・フィリップスのプロデュースによるイギリス録音。
イギリス録音のA-3”God Bless The Lord”には、ドリス・トロイを含むゴスペル隊のコーラスも入ってきたり。A-4”Go West, Young Man”のポップ・カントリーなノリも気に入った。ハードなギターに始まりサビでポップに展開するA-5”Been So Long”、このギターのクレジットAdrienne Curtisはエイドリアン・ガーヴィッツでしょう。英国ハード・ロック創成期のミュージシャンの一人。The Gunを結成していた弟のポール・カーティス(ガーヴィッツ)も本盤にアコギで参加している(B-1”Just A Matter Of Time”のロック過ぎる早弾きアコギソロを弾いているのが彼ではなかろうか)。エイドリアン・ガーヴィッツは『スウィート・ヴェンデッタ(甘い復讐)』の強烈な印象もあって日本ではAORの人、というイメージだが、クリームのジンジャー・ベイカー(先日のジャック・ブルースの死は本当に痛恨でした…)と組んだベイカー・ガーヴィッツ・アーミーといい、聴き所の多い人。あとはベースのキース・エリスはギリギリ、ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレイター在籍時の参加かな。そしてドラマーのマイク・ケリーはジューシー・ルーシー、スプーキー・トゥースに加わり、トラフィック、ジョージ・ハリスン、ジョー・コッカーなど数え切れない大物と共演した著名セッションマン。あと、アルバムに3曲を書いているルイーズ・ゴールドバーグの曲で”Allison”というのがあって、何だか心に残った。エルビス・コステロとはまた違ったバラードで。
ジョン・シムスンはレコーディング・アーティストの後、裏方に転身し、メアリー・チェイピン・カーペンターやスティーヴ・フォーバート、ジョネル・モッサーらのマネジメントを担当し、自身の監修したテレビ番組『アメリカン・ルーツ・ミュージック』が2002年にエミー賞にノミネートされたりもしているらしい。日本でこんなレコードに巡り会えたのもさりげなく嬉しい。