*[コラム] フーテナニーってナニ?
「HOOT」は「フーテナニー」の意でフォーク・エラによく使われた言葉。アバのメンバーになるビョルン・ウルヴァースがスウェーデンで作ったフォーク・グループはフーテナニー・シンガーズだったけれど、これは流行語をそのまま使っちゃったベタな恥ネーミング(笑)スウェーデンは当時、英米より文化的時差があったとわかる。「フーテナニー」は元々世界恐慌後の1930年代・ニュー・ディール時代に米・民主党のヒュー・デ・レイシー(共産党員でもあった)の団体が使った言葉で、後にピート・シーガーやウディ・ガスリーといったアメリカン・フォークの父が定着させた。その中身は、複数のアーティストを集め、観客と一緒に歌う(シング・アウト)というライブのスタイル。ハコ的には、ワンマンを任せられない新人に数曲ずつ発表の機会を与えて彼らの家賃の支払いを助けつつ、いろんなアーティストのステージを観たい客のニーズも同時に満たせた。自分さえよければ、ではないリベラルの発想ですよね。こういうのがあったから、洋邦問わずフォーク世代のミュージシャンは思想的に留まらず、人間関係の面でも連帯できたのだろう。そう思うと、フォーク世代以後のベテラン・ミュージシャンは、今こうした連帯が弱いから、ちょっと可哀そう。格差を自己責任とか言って見過ごす時代になり、1・2曲、昔のヒット曲だけちょろっと歌わしてもらえるイベントでもなければ採算も合わないから、ビッグイベントのオファーはまず一向に来ない…そんなベテランも多いんじゃないかな。固定ファンばかりだと、ファンが増えることはないから、業界も尻すぼみになって。ま、フーテナニー的なイベントは今もなくはないんですけどね。アコースティック系が多いけれど、それは入れ替えのセッティングに時間を取らないからだろう。
前置きが長くなったけれど、この『HOOT TONIGHT!』( Warner / 1963 )なるライブ盤、カリフォルニアのハーモニー・ポップの伝統に位置するモダン・フォーク・カルテットのライブが2曲(”Jack Fish”と”Jordan’s River”)収められているから入手してみた。いわゆる白プロモだが、あまり売れなかったのかな。聴いてみると、ソロ作をよく聴いていたバド・ダシェル(&キングスメン)とか、ゲートウェイ・シンガーズ(メンバーのルー・ゴットリーヴはグレン・ヤーブローらとライムライターズを作り、トラヴィス・エドモントンは抜けた後、バド・ダシェルとバド&ダシェルを作る)とか。そしてリン・ゴールドが歌う美しい”Anathea”のクレジット「Terry Collier」に惹きつけられた。テリー・コリアーとあるけれど、黒人フォークシンガーでフリーソウル界隈でも持て囃された「テリー・キャリアー(Terry Callier)」では?と思って調べると、彼の最初期のクレジット作品のようだった。テリー・キャリアーはデヴィッド・クロスビーと60年代に短期間デュオを組んでおり、シカゴにツアーで訪れたミリアム・マケバのバッキングを担当していたジム・マッギンことロジャー・マッギンにデヴィッドを紹介したんだとか。バーズ(The Byrds)結成前夜のエピソードである。