8月31日のアレサ(アリーサ)・フランクリンの葬儀。スティーヴィー・ワンダーが"make love great again"なんて言っていた。本当にそうだと思う。「アメリカ」などという国家とか、家族だとか、たかだか近代に作られた価値は脆いものだし、素直に信じてはいけないのかもしれない。分断する共和党トランプよりも公民権運動を支えた民主党ケネディ時代のラブ&ピースの感性が60年代ソウルやロックには通底している。
そんなことで今更ながら…アレサが亡くなったことを思い返して。糸井重里さんのツイッターで危篤の報を聞いたのが初報。ただその日の朝、アレサの2014年作『Sings The Great Diva Classics』が急に聴きたくなって、久々に探し出して聴いていたものだから、嫌な予感がした。前にこんなことがあったのはジョン・デンバーかな。高校生の頃、ジョンのCDを初めて買ってきた翌日、飛行機事故で亡くなったのだった。朝、父親に「ジョン・デンバー死んだぞ!」と言われて起こされたのを覚えている。
で、今日になってやっと落ち着いてアレサを聴く気になれた。好きなレコードは色々あるけれど、『Live At Fillmore West』と『The Girl’s In Love With You』がどうにも突出している。
80年代作もよく聴いていたけれど。これらはLP。CDは最近とうとう出すのが面倒になってきて、近作しかすぐ手に取れない状況。『Sings The Great Diva Classics』も10年前ならもっと売れていたかもしれない。クライヴ・デイヴィスが手がけた、ロッド・スチュワートのジャズ/ソウル・クラシック・カバー集のアレサ版という体。本当にクライヴ・デイヴィスとアレサ自身が共同プロデュースを務め、当時復活したところのベイビーフェイスなんかも参加している。”I Will Survive”なんかを割とコンテンポラリーなアレンジでやっているんだけれど、シャウトしまくるボーカルを聴いていると、まだこの時は元気だったのかな、と。バリバリ、フェイクしながらのアレサ節。ここに入っているグラディス・ナイト&ザ・ピップスでヒットした”Midnight Train To Georgia”のカバーがとても良い。大好きなソングライター、ジム・ウェザリーの曲。とはいえ注目すべきはアデルの”Rolling In The Deep”やアリシア・キーズの”No One”のカバー、なのかもしれないけれど。
それにしてもソウル音楽は過去のものになってしまった。海外でもソウルは90年代以降、風前の灯のようなジャンルになっているし、特に日本のシーンは厳しい。ファンの方にはタイヘン申し訳ないけれど、そういった音楽がルーツの一つになっているはずの、現代日本のアカペラ・グループなどに取り立てて琴線が反応したことはない。ただそれは今に始まったことではなく、10代の頃から同時代の音楽に対しては大抵そんな風だった。余計なお世話だと言われそうだけれど、歌を歌いたい理由がそれほど伝わってこないからかもしれない。でもなぜ?恵まれすぎているから?あるいは何事も消費されていく時代のせいだから?それも今に始まったことではないのだけれど…アレサ・フランクリン…黒人として、ひとりの女性として、歌う理由しか見当たらない歌…レイ・チャールズもそうだったけれど。二人が出演した『ブルース・ブラザーズ』も強烈だった!大学生の頃、アレサが歌う"Think"のシーンを友達の下宿で観せられて、ソウルに目覚めたんだったか。そういえばアレサの夫役だったマット・マーフィーも6月に88歳で亡くなっていたな…。