音楽ブログにて、哲学の本のお知らせは唐突かもしれませんが、9月上旬に初めての単著となる『哲学するタネ【東洋思想編】』(明月堂書店)を出版する運びとなったので(2017年10月から始めた同名インターネットラジオ番組の書籍化)、お知らせできればと思います。
とはいえ出版のキッカケは音楽と深い縁がありました。編集から装丁、校正や進行管理までの全てを手がけて頂いたマルチな編集者・杉本健太郎さんは、私の大学時代のサークルの先輩にあたります。何を隠そう杉本さんと私は、今は亡き渋谷・ジァンジァンが閉館するまで、元・古井戸の加奈崎芳太郎さんのライブの「追っかけ」をやっていたのです。さらに、1960〜70年代文化に耽溺していた90〜00年代の私です。大学時代はロックをはじめとした60年代アメリカのカウンター・カルチャーを研究対象とし、寺山修司といった日本のアングラ文化や漫画雑誌『ガロ』(つげ義春や白土三平、林静一、永島慎二、佐々木マキ、水木しげるから根本敬、蛭子能収、みうらじゅん、しりあがり寿までを輩出した!)に心酔していたのです。
今回のお話を頂いた際、杉本さんに連れられて出版元の明月堂書店のオフィスに足を踏み入れたときは目を疑いました。そこには『ガロ』のバックナンバーが全て揃っていたんです。それもそのはず、社長の末井幸作さん(『素敵なダイナマイトスキャンダル』の末井昭さんとはただならぬ関係にある)は『ガロ』の創業者・長井勝一の意志を継ぐ青林工藝舎を立ち上げた方の一人だったのです。しかも末井さんから「赤色エレジー」の林静一さん作の陶器までもを頂戴してしまい…これこそ運命だと思いました。
本の中にも書きましたが、哲学と音楽はよく似ています。どちらも人生にあってもなくても良いものである、などと言いたいのではありません。語りえぬものについて語ろうとしている点、人間性を深く追求している点、世界をより良いものにしようとしている点…世間に流布する一般的定義や解答に疑いを持ち、批判・吟味の上で自分なりの答えをオリジナルに表現するというプロセス…それに触れた人々の前には今までとは全く違う様相の世界が立ち現れ、そこから新たな思索・創作が始まるという相互作用…私が哲学や音楽に惹かれる理由はそんなところにあります。ですから今回哲学の本を作ったことと音楽制作とは、自分にとってほとんど差がありません。
ただ、私が心配しているのは、哲学や芸術を切り捨てんとする、昨今の時代の風潮です。高校レベルで唯一哲学を学べる授業である「倫理」という科目は必修から選択へと格下げされます。これはグローバル企業の要請を受け、政府が国立大学の文系学部を再編し、哲学や文学のような文系学問が風前の灯のような状況になっていることと地続きです。中高では英語の時数などが増える一方で、芸術の時数が徐々に減らされていることは、教育関係者なら周知のことと思います。「ゲゲゲの鬼太郎」でおなじみの漫画家・水木しげるが太平洋戦争に従軍する直前の手記に「芸術が何んだ 哲学が何んだ 今は考へる事すらゆるされない時代だ」とありました。そこには、戦争を前にして人間らしい感性が切り捨てられていく現状に煩悶する水木の姿が生々しく記されています。グローバル経済を勝ち抜く企業「戦士」を国家と多国籍企業が手を組んで育てようと躍起になっている昨今、哲学も芸術も「今は考へる事すらゆるされない時代」なのかもしれません。
とはいえ、くさっている場合ではありません。哲学する基本知識を「タネ」(つまり”ネタ”)と呼び、高校「倫理」の学習内容を軸として、混迷の時代にあって答えのない問いに答えを求め続ける「タネ蒔き」をしようじゃないか、というのが本書の基本姿勢になっています。全70章の内、第1弾は【東洋思想編】(1〜32章)です。原典引用満載で384頁という特大ボリュームになってしまいましたが、思想・哲学という堅いジャンルながら、ラジオを聴くような読みやすいスタイルで記述するよう心掛けました。「日本」という国の成り立ちとその思想はもちろん、仏教を学びなおしたい、孔子の『論語』を読み直したいといったニーズにもお応えできるかと思います。アマゾン及び全国の書店でも予約注文が始まりました。何卒よろしくお願いいたします。
●明月堂書店[9月の新刊のご案内]哲学するタネ【東洋思想編】(石浦昌之 著)9月上旬発売!!
http://meigetu.net/?p=6974
●アマゾン
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【目次】
1章 日本とは
2章 古代日本人の思想
3章 日本文化の特色
4章 日本の風土 日本人の美意識
5章 仏教の受容
6章 平安仏教(最澄、空海)
7章 鎌倉新仏教(1)(浄土信仰、法然、親鸞、一遍)
8章 鎌倉新仏教(2)(栄西)
9章 鎌倉新仏教(3)(道元、日蓮)
10章 近世日本の思想(1)(朱子学)
11章 近世日本の思想(2)(陽明学、古学派)
12章 近世日本の思想(3)(国学、神道)
13章 近世日本の思想(4)(民衆思想)
14章 近世日本の思想(5)(蘭学、和魂洋才、水戸学)
15章 福沢諭吉
16章 中江兆民、植木枝盛
17章 キリスト教
18章 近代文学(1)(ロマン主義、自然主義)
19章 近代文学(2)(森鷗外、夏目漱石、白樺派、宮沢賢治)
20章 社会主義
21章 国粋主義
22章 大正期の思想
23章 日本の独創的思想(和辻哲郎、西田幾多郎、九鬼周造)
24章 日本の民俗学(柳田国男、折口信夫、南方熊楠、柳宗悦)
25章 戦後日本の思想(丸山眞男、加藤周一、大江健三郎、坂口安吾、吉本隆明、村上春樹)
26章 バラモン教
27章 仏教(1)
28章 仏教(2)
29章 中国思想(1)(孔子)
30章 中国思想(2)(孟子、荀子、韓非子、墨子、その他の諸子百家)
31章 中国思想(3)(朱子・王陽明)
32章 中国思想(4)(老子・荘子)