ナイアガラーならチェックしているであろう、大滝詠一『ロング・バケイション』のクレジット。
キーボードを担当する一人はそう、山田”笑い上戸”秀俊…というわけで(誤字あり!)。そのピアニスト・ソングライター・アレンジャーの山田秀俊が2016年自主レーベルより、65歳にして初のソロ・アルバムをリリースしていた(通販開始は昨2017年)。今聴き終わったところだけれど、ただただ唸ってしまう。シティ・ポップ再評価のムードに完璧にマッチした、AOR気分満載、英語詩によるスムース&メロウな傑作だと断言したい。リゾート気分なジャケットも、本日4月21日開催のレコード・ストア・デイ・ジャパンのオフィシャル・ガイド・ブック(永井博デザイン)と並べてみたい感じ。
山田秀俊は同郷大分県の南こうせつから、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだった かぐや姫 のバックに誘われたことが音楽活動の本格的なスタートであったようだ。その後EAST解散後の吉川忠英のバンド、吉川忠英&ホームメイド(徳武弘文も在籍)に加わり、五輪真弓、吉田拓郎、ビリー・バンバン、原田真二をはじめ数多くのアーティストのサポートを務めている。以後セッション・ミュージシャンとして参加したアーティストは松田聖子、中森明菜、小泉今日子、中山美穂、さらに長渕剛、浜田省吾、中西圭三、さだまさし、杉山清貴からSing Like Talking、Misia、EXILE、Kinki Kids、NEWSに至るまで…つまり70年代前半に一大市場が完成したフォーク、ニューミュージックから80年代のポップス、アイドル、90年代のJ-POPまで…日本の戦後ポピュラー音楽史の歩みとともにあった、と言っても過言ではない歴戦のミュージシャンなのである。
そんな彼がライブハウスを回り、自ら弾き語りで歌うようになった…というのは、パーキンソン病を経験し(一時演奏不能にまでなったという)、音楽人生の後半で自らやり残したことがあったと考えたからなのかもしれない。しかしその活動は、肥大化した音楽シーンがある意味、適正な市場となった今の時代の気分にフィットしているように思えてならない。ちなみにワタクシ、たまたま山田秀俊さんのHP(https://hidetoshi-yamada.jimdo.com/)に辿り着き、本盤を試聴してとにかくビックリ!してしまい…すぐさまメールをお送りし、注文させていただいた次第。M-1〜M-5は「静寂」「葛藤」「別れ」「嘘」「回想」とタイトルがついたインスト。これがまたリリカルかつエモーショナルで、とっても良い。シンガー・ソングライターが歌っているようなピアノ、とでも言いますか…そしてM-6”Rediscover”からM-14まで英語詩による歌モノが始まるのだけれど、時にジャジーで良質なAORの粋を尽くしたクオリティの高い楽曲、何よりそのクリスタル・ヴォイスに聴き惚れてしまった。”Lost In You”での多重コーラスやファルセットも素晴らしい。どうしても個人的なイメージだけれど、大滝詠一『ロング・バケイション』のエヴァーグリーンな魅力と重ね合わせてしまう。ビル・カントスやランディ・グッドラムなんかが好きな方もハマると思います。ミディアム・バラードM-10”In My Dreams”の間奏では名手・大久保明のギターも凄まじかった。スティーブ・ルカサーやジェイ・グレイドンを思わせる存在感のあるプレイ…そしてラストのM-15”まどろみ”は再びインストで、しっとりと作品を締めくくっている。意図してのことと思うが、曲と曲の継ぎ目を無くしてあり、桃源郷のような場所に連れて行かれたまま、最後まで帰してもらえないような。こんな音楽が好きだ。これからもずっと、素敵な音楽を作り続けて欲しいと切に願っている。