またまた更新がしばらく空いてしまった。それにしても今年はレコがカナリ増えている年。コレクターの人ならわかると思いますが、やばいな〜と思う感じの時ってありますでしょ。やりすぎてるな〜という。80年代もののオリジナル盤の買い直しを始めたのが主な理由。音が良いものもあったので、発見はおいおい紹介していくつもりです。
さて、先日は(横浜でのイベントぶりに)渋谷のパイドパイパー・ハウスに行き、長門さんにご挨拶。たまたま僕のアルバムのジャケット・デザインを担当してくれているSSWのダニエル・クオン君の話になったら、ダニエル君と長門さんはその日にメールでずっとやりとりしていたらしく…そういう有り得ない偶然が面白い。で、ユーミンの夫でもあるマンタこと松任谷正隆さんのトークショーが来週あるからもしよければ…と教えてもらったので、足を運んでみたというわけ。
山下達郎・大貫妙子・村松邦男らが在籍していたシュガー・ベイブのマネージャーとして、旧パイドパイパー・ハウスでレコードを紹介する店長として、古くからの付き合いだという長門さんが相手だったからこそ、松任谷正隆さんの普段聞けないような70年代の貴重なお話が中心となった1時間あまり。お客さんも沢山。なんと大滝詠一さんが生きていたら69(ロック!)歳の誕生日の日だったのですね(布谷文夫さんのお話も出ましたが)。キャラメル・ママ時代、小坂忠さんのフォージョーハーフ時代のエピソードが楽しかった。能古島で行なわれたウッドストックの様な野外イベント、ピアノが無くてエレクトーンしかなかった、とか、夜とっても臭う”あるもの”の上で寝てしまい泣きながらシャツを洗った…とか凄まじいエピソードも。はっぴいえんどは免許取りたての長門さん運転の自動車で遅れて到着したとか、そんな話を昨日のことのように。
ユーミンの詩・ジャケットイラスト、松任谷正隆の唄・作編曲による1977年の唯一のソロアルバム『夜の旅人』、以前はご本人、再発を望んでいなかったそう。でも大貫さんと数日前のライブで「荒涼」など2曲を演ったとのことで、やっと客観的に受け入れられる作品になったのかも。なんと待望のソロ新作(2作目)のプリプロも始まっていて、2曲は素材が出来上がっているとのことだから、こちらも楽しみ。
僕は『夜の旅人』を90年代のCD再発で初めて買って、2015年の長門さんが手がけた再発(ご本人はバーニー・グランドマンのリマスターを希望したけれど、予算面で叶わなかったとのこと、しかし素晴らしい音!)も今回手に入れた。「日本のニック・デカロ」というのは結構当たっている位置づけだと思うけれど、当時ニックは本人の意識になかったみたい。自分みたいな音楽オタクになってしまうと、分析的に聞くのがクセになっているから、「何々の影響で…」などと言いたがるのだけれど、たいがいミュージシャンに話を聞くと、結構感覚的に他人の音楽を吸収しているからか、他人からの影響は意識上になかったりする。あとはどうしても同じ方向を向いてしまう時代的共振というものもあるだろうし。ただ、フルムーン(伊藤銀次さんから教えてもらったとか)やオハイオ・ノックス(カラミティ・ジェーンをかけていた)などは音楽的ルーツを明言しつつ曲をかけていたのが興味深かった。『夜の旅人』を聴いていると、1曲目はグレン・キャンベル/ジミー・ウェッブのウィチタ・ラインマンのアウトロ風だったりと、当時の洋楽受容の様相がわかる。それしてもユーミンの大衆性を支えた絶妙なバランス感覚はすごい。正隆さんは吉田拓郎とかもやっていたわけですから。日本人のツボみたいなものを心得つつも、洗練された音楽を演っていたのだと思う。
そう、影響といえば来日中の元セクションのギタリスト、ダニー・コーチマーがふらっとサプライズ登場して。はじめ、店内をうろちょろしているお爺さんがいて、誰かいな、と思っていたんですが、まさか。正隆さんはジョー・ママが好きだったそう(アティテューズは知らないと言っていた)。そういえば出たばかりのキャロル・キングの新作『つづれおり:ライヴ・アット・ハイド・パーク』にもダニーが参加している。
店内には正隆さんのCDの隣にMonchicon! 清水祐也くん監修の『Folk Roots, New Routes フォークのルーツへ、新しいルートで』(シンコー・ミュージック・ムック)がディスプレイされていた。私もレビューを書かせてもらったムック。本書に収録されているインタビュー中に書かれた細野晴臣&デヴェンドラ・バンハートのサインも!とにかく素敵な空間、理想のレコ屋です。