*[ジャズ] Hoagy Carmichael / Mr Music Master(Coral / 1965)
ホーギー・カーマイケルといえばスタンダードの”Georgia On My Mind”や”Stardust”、”Hong Kong Blues”の作者。シンガー・ソングライターの先駆けと言っても良い人。こういう小唄系の弾き語りは大好き。マット・デニスとか、ボビー・トゥループとか。ご本人の文章で読んだのかな、南青山のレコード店パイド・パイパー・ハウスで長門芳郎さんが1975年にホーギーのMCAのベストのカット盤を仕入れて、ベストセラーになったのだという。マニアックな音楽ファンって、いつの時代にもそんなに多くはいないわけだけれど、そのマニアックなファンの裾野を地道に広げる啓蒙活動が重要だと思う。今も日本の音楽ファンにホーギーの音楽が比較的知られているのは、そこに端を発するのだろう。細野晴臣の『泰安洋行』におけるカバーしか知らない、という所で終わっていたかもしれないわけだし。いまYouTubeの時代になったからと言って、音楽の世界が無尽蔵に広がるとも限らない(むしろ全体的にその選択肢は狭まっていく)ということは、皆さんもよくわかっていることだと思う。
個人的な所でいうと、20年以上前でしょうか。細野さんの”Hong Kong Blues”のカバーやレイ・チャールズの名唱”Georgia On My Mind”、そしてアート・ガーファンクルもカバーした”Two Sleepy People”あたりからホーギーに辿り着いたはいいが、音源が聴けなくて。まだレコードを20枚も持っていなかった頃かな。高田馬場の中古屋で1982年のベスト『The Stardust Road』というのを手に入れまして。コレが嬉しくて聴きまくりました。
で、パシフィック・ジャズ1957年の『Hoagy Sings Carmichael With The Pacific Jazzmen』ってやつの日本盤も買いまして。CDも何か持ってたはずだが、今すぐには出てこない。ジョージー・フェイム、アニー・ロスとご本人による1981年のトリビュート盤『In Hoagland 1981』やジョン・サイモンの『Hoagyland』という長門さんのドリームズヴィル盤もよく聴きました。
いつの日かホーギーのSP盤に手を出したいのはやまやまだけれど、SPに行っちゃうと色々なものが音を立てて崩壊することが目に見えているので(笑)。一番良い音で聴けるのはなんだろう、と思うけれど、オリジナルのLPすら余り見かけたことがない。かと言ってアメリカから買うのも…トランプ時代あたりからですかね、アメリカからのレコ空輸の送料がやたらと高くなって。円が弱くなったってのもあるんだけれど、アメリカのレコを外に出させないような内向きな時代の空気を感じました。安価な船便もなくなっちゃいまして。それと団塊の世代ぐらいの中古レコ屋の店じまいに伴い、いつも手もみでメール応対してくれていた店主が急にそっけなくなったりも(笑)そんなこんなで取り寄せる術が狭まった所で、1965年にイギリスでリリースされたベスト『Mr Music Master』を先日発見。1970年の再発だけれど、音がとても良かった。レコ屋での偶然でアナログな出会いが嬉しい。”Georgia On My Mind”のギターはペリー・ボトキンだとか(息子のペリー・ボトキン・ジュニアは著名なアレンジャー)、”Hong Kong Blues”のドラムスは冗談音楽でこれまた最高なスパイク・ジョーンズだったという発見も。しかし現在の香港は違う意味でブルースですね。ああいう原理主義的で排他的な中国共産党のあり方は、実はココ日の丸の国でそのあり方を批判する人の考えと実はよく似通っていて、そんなことをやっている限り、オリエンタルなジャズなどという文化が生まれる余地はなくなってしまうだろう。