いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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 高田馬場タイム再訪(2016年)

markrock2016-01-21




突然行かなくなる街というのもあるものでして。都合12年間もの学生時代を送った高田馬場なんですが、想い出のレコ屋・タイムの今月末での閉店を知り、居ても立ってもいられず駆けつけて。しかし改めて、変わっていたなあ…学生の街と言えば本屋とレコード屋。なのに芳林堂もないしムトウもない。タイムもそうだけれど、DISCATやレコファンやDISC FUNもないっていう。思わず、かつての毎日の巡回コースを回ったけれど、建物だけは残っているから遺跡巡りみたいで。


レア盤を10円(ジャケに値段がマジックで書かれていた…)で放出していたDisc Funはバーに改装されていた。



学生帽を被ってえんえん居座ったDiscatがあったのはこの辺りだったか?今はもうない。



高田馬場駅前、BIG BOXの古書感謝市に立ち寄った後、ムトウに行ったりしたものだ。今はガストに。

この階段の上が夢の国だったんだけれど…横断歩道向かい側の店舗ももちろんなくなった。


タイム発見!昔の黄色の看板ではないので一瞬どこだかわからなくなったけれど。ロゴや内装が先代の店主が亡くなられた後、オシャレに生まれ変わっていたのは知っていた。入り口の均一棚はとても懐かしくて。私が通っていた頃は均一CDも置いてあって、エヴァリーズのベストやニューポート・フォーク・フェスのディラン出演盤なんかを有象無象の山から発見した奇跡を思い出す。今日は最後だから、小椋佳の持っていない盤みたいなものを選んだよね。昔もこういう当たり前な日本のフォークなんかを殆ど一から集めていたんだった。



改装で2階が無くなったのもショックだったけれど。この階段の上にとてつもない密林が待ちかまえていて。ワクワクした気持ちが忘れられない。



1階の店内は管理が行き届いていて。手頃な価格もタイムの心意気だった。今回眺めた400位の均一コーナーは、20年前から値段を変えないラーメン屋のような安定感。シーカーズとか、探していたメル・トーメRaindrop keep fallin’ on my head』とか、レオ・セイヤー『Just a boy』山田パンダのパンダフル・ハウスとかを昔のノリで選んでしまう。80年代のロックンロール・リヴァイヴァルの頃の鹿内孝『オールディーズ・ヒット』、ハーマンズ・ハーミッツのピーター・ヌーンが作ったバンド、トレンブラーズ(The Tremblers)、ジェイムス・バートン&ラルフ・ムーニーの盤、カウント・ベイシーがブッカー・Tのグリーン・オニオンズを演っていたりする盤、ジャック・ニッチェ・プロデュースのバンド、サムナー(Sumner)(アサイラム!)などもめっけもんだった。そう、トム・ペイスの『Maybe』というレコード、初めて聴いたけれど、ソフトで繊細、爽やかなアクースティック・ポップで最高だった!



ひげの社長の跡を継いだ店長さんともお話ししたけれど、今回の閉店の決断。音楽業界の状況とかだけではなく(もちろん売れる旧譜にばかり力を入れ、新譜に力がなくなってきたのは大きい)、震災後の日本の人々の意識の変化(急激に売る人が増えた、と)とか、ネット(YouTube含め)とか、グローバル化とか、政治も経済も、色んな問題が複雑に絡み合って良くない連鎖になってしまい…というお話が何とも印象的だった。地方はレコ屋がどんどん無くなっているし、某ディスクユニオンみたいなチェーンに行けば活況のように見えるけれど、全体的に店が減ったため、レコード・クレージー達が単に一極集中している様相なのかも。次第に身体までむしばんでくるようなこのどん詰まり感、私だけじゃないと思うけれど、音楽とかロックとか、レコード文化を長らく愛してきた人達がいま、陰鬱に覆われている何かだよな、と。ボウイもグレン・フライも、岡本おさみ野坂昭如も…とか、中村とうよう加藤和彦加瀬邦彦が、っていう話にもなってくる。それに加えて、店長さんは私よりちょっと年上だけど、団塊チルドレン世代が抱くなんだか共感できる感覚があった。とにかく世界中で戦後文化を引っ張ってきた団塊世代の文化に影響され、大人になって、90年代は多くの若者もレコードに魅せられるという新旧夢の共演もあって、高田馬場も渋谷も下北沢も新宿もレコード・バブルで、そんな時代は永久に続く…と思って結局音楽の道にまで足を踏み入れちゃって…なのにどうしてくれんだよ、っていう。そんなやるせなさと諦めと。



そんなこんなで今日ばかりはとタイムの昔話に花を咲かせていると、お店のお客のおじちゃん達も「いや〜話聞いてたけど私も実はね…」なんて皆々、順々にタイムの想い出を語っていらっしゃって。愛されたお店だったんだな。向かいの通りにあった旧店舗から35年通ってるよ、なんて方もおられて。レコード愛は真摯で純粋なものだと思い知る。店長さんの、レーザーディスクなども含めて、どんなメディアも買い取ってレコード文化を残し、必要とする人に継承していくんだ、という強い想い・熱意にもある種の真理を見た気がした。



だから、そんなに暗い気持ちばかりを抱いているわけでもない。だってレコ屋通いを始めた高校生の時分、すでに、同世代のお客でCDでなくLPを買っている人はごくまれにしかいなかったし。ちなみにそのごくまれな人達は不思議と今も音楽に関わっておられたり(笑)。そういうものなのかもしれない。とはいえ、店を出るとですね、おそらくこの大きな包みが何なのかも、この店が何屋なのかも知らないワセダの学生の集団が無関心に通り抜けていったのには、寒風もあってか何か応えたな。



さて、そんな高田馬場散策の最後にはレコーズハリー。やってるかな?と思いつつ行くと、完全にタイムスリップした雰囲気で、店内ですれ違えないほどのパンパンのレコードも健在。入ると名物店長さんもいらっしゃって。「モヤモヤさまぁ〜ず2」の準レギュラーになっている郷ひろしさん。店に入るなり、パン食べる〜?なんつってお茶とメロンパンを一緒にごちそうになってしまうと言うこのカオス感がやはり高田馬場再訪に相応しかった。正月のテレビでも披露した新曲のデモテープに合わせて生歌を突然聴かせてくれる、とか、こういう感じが街やレコード屋という場の魅力といいますか…こういうの好きですね。郷さんが師事していたデューク・エイセス和田さんがコーラスを教えてあげていたという縁から生まれたGS人脈のお話は、店長さんのベーシストとしての音楽活動と重なり合い、本にした方がいいんじゃないかな、と思うほどのエピソード。話が尽きない。ここでは初めて見たルッキング・グラスの2枚目のアルバムと、イーグルスの”Take it easy”をカバーしたジョニー・リヴァースのアルバム(グレン・フライ追悼…)を選ぶ。最後に池袋だか椎名町だかのレコ屋の解体に立ち会った際、当時90歳の店長(シベリア抑留から帰ってきた方)から手伝ったお礼にもらってきたんだ、という山下達郎のソロ・デビュー盤『Circus Town』のサイン盤なんてのも譲っていただいた。山下達郎氏がデビュー前にそのレコ屋でバイトしていたとのことだ。私もいずれ年をとったとき、誰か欲しがる人の所にまたこのレコードが旅だっていくんじゃないかな、と思った。レコードや文化とはそういうものだ。