いしうらまさゆき の 愛すべき音楽よ。

音楽雑文家・SSWのブログ

いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

f:id:markrock:20190212213710j:image
いしうらまさゆき へのお便り、ライブ・原稿のご依頼等はこちらへ↓
markfolky@yahoo.co.jp

2024年5月31日発売、V.A.『シティポップ・トライアングル・フロム・ レディース ー翼の向こう側にー』の選曲・監修・解説を担当しました。
購入はココをクリック
f:id:markrock:20240420111943j:image
[NEW!!]2024年3月29日発売、モビー・グレープ『ワウ』、ジェントル・ソウル『ザ・ジェントル・ソウル』の解説を寄稿しました。

購入はココをクリック
f:id:markrock:20240420112225j:image
購入はココをクリック

f:id:markrock:20240420112255j:image
2024年2月23日発売、セイリブ・ピープル『タニエット』の解説を寄稿しました。
購入はココをクリック
f:id:markrock:20240420112151j:image
2023年12月22日発売、ロニー・マック『ワム・オブ・ザット・メンフィス・マン!』、ゴリウォッグス『プレ・CCR ハヴ・ユー・エヴァー...?』、グリーンウッド・カウンティ・シンガーズ『ハヴ・ユー・ハード+ティア・ダウン・ザ・ウォールズ』の解説を寄稿しました。
購入はココをクリック
f:id:markrock:20240420112019j:image
購入はココをクリック
f:id:markrock:20240420112121j:image
購入はココをクリック
f:id:markrock:20240420112046j:image
2023年12月22日(金)に大岡山のライブハウス、GOODSTOCK TOKYO グッドストック トーキョーで行われる、夜のアナログレコード鑑賞会 野口淳コレクションに、元CBSソニーでポール・サイモンの『ひとりごと』を担当されたディレクター磯田秀人さんとともにゲスト出演します。
ココをクリック
「アナログ鑑賞会〜サイモンとガーファンクル特集〜」 日時:12月22日(金) 19時開演、21時終了予定 入場料:予約2,000円 当日2000円(ドリンク代別) ゲスト:石浦昌之 磯田秀人 場所:大岡山 グッドストック東京 (東急目黒線大岡山駅から徒歩6分) 内容:①トム&ジェリー時代のレコード    ②S&G前のポールとアートのソロ·レコード    ③サイモンとガーファンクル時代のレコード(USプロモ盤を中心に)    ④S&G解散後、70年代のソロ·レコード ※それ以外にもレアな音源を用意しております。
2023年11月25日(土)に『ディスカヴァー・はっぴいえんど』の発売を記念して、芽瑠璃堂music connection at KAWAGOE vol.5 『日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』を語る。 と題したイベントをやります。
f:id:markrock:20231119123246j:image
2023年9月19日、9月26日にTHE ALFEE坂崎幸之助さんの『「坂崎さんの番組」という番組』「坂崎音楽堂」で、『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』を2週にわたって特集して頂きました。
1週目 ココをクリック
2週目 ココをクリック
f:id:markrock:20230904182855j:image
坂崎さんから
「聞きなれたS&Gがカバーしていた曲の本家、オリジナルの音源特集でしたが、なかなか興味深い回でしたね。やはりビートルズ同様に彼らもカバー曲が多かったと思うと、人の曲を演奏したり歌ったりすることも大事なのだと再確認です。」
2023年10月27日発売、『ディスカヴァー・はっぴいえんど: 日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』の監修・解説、ノエル・ハリスン『ノエル・ハリスン + コラージュ』の解説を寄稿しました。
購入はココをクリック
f:id:markrock:20230926181532j:image
購入はココをクリック
f:id:markrock:20231022131852j:image
2023年9月29日発売、『風に吹かれて:ルーツ・オブ・ジャパニーズ・フォーク』の監修・解説、ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー『ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー』の解説を寄稿しました。
購入はココをクリック
f:id:markrock:20231022130416j:image

f:id:markrock:20231022130609j:image
購入はココをクリック
f:id:markrock:20231022130403j:image
2023年7月28日発売、リッチー・ヘヴンス『ミックスド・バッグ』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
購入はココをクリック
f:id:markrock:20230918110205j:image
2023年8月26日(土)に『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』の発売を記念して、西荻窪の素敵なお店「MJG」でイベントをやります。
f:id:markrock:20230813101635j:image
2023年6月30日発売、ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクルの監修・解説、ジャッキー・デシャノン『ブレイキン・イット・アップ・ザ・ビートルズ・ツアー!』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
購入はココをクリック
f:id:markrock:20230918104848j:image
購入はココをクリック
f:id:markrock:20230918105526j:image
2023年3月31日発売、スコッティ・ムーア『ザ・ギター・ザット・チェンジド・ザ・ワールド』、オールデイズ音庫『あの音にこの職人1:スコッティ・ムーア編』、ザ・キャッツ『キャッツ・アズ・キャッツ・キャン』の3枚の解説を寄稿しました。
購入はココをクリック
f:id:markrock:20230408155636j:image
f:id:markrock:20230403220702j:image
f:id:markrock:20230403220638j:image
2023年2月24日発売、ビッグ・ボッパー『シャンティリー・レース』、フィル・フィリップス『シー・オブ・ラブ:ベスト・オブ・アーリー・イヤーズ』、チャド・アンド・ジェレミー『遠くの海岸 + キャベツと王様』の3枚の解説を寄稿しました。
購入はココをクリック
f:id:markrock:20230129183945j:image
2022年12月23日発売、バディ・ホリー・アンド・ザ・クリケッツ 『ザ・バディ・ホリー・ストーリー』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
購入はココをクリック
f:id:markrock:20230403220543j:image

 James Taylor / Before This World ( Concord /2015 )

markrock2015-06-24



70年代のシンガー・ソングライター・ファンにとっては、大物のリリースが相次いでいる感もある。JDサウザージェイムス・テイラー、そして2002年の日本公演が書き下ろし新作を制作する活力になったというまさかのエリック・カズ。リンダ・ロンシュタットなんていう縦糸でも括れる三人だけれど、そこにジミー・ウェッブの”Adios”のカバーでコーラス・アレンジを担当したという縁でブライアン・ウィルソンの新作『No Pier Pressure』を加えてもいいかな。個人的にはこれらは久々に日本盤CDを買った新作でもあった。旧作LPは相変わらず増え続けているし、新作もLPずくしだったもので。



ジェイムスの新作はそれにしても13年ぶりなんですか。オリジナル・アルバムだと『October Road』以来。ずいぶん隔世の感がある。時代も変わり、音楽産業を巡る状況も激変。業界は明らかに縮小し、YouTubeや定額サービスで音楽を聴くのが主流になった。さらにCDはCDの価値を維持するべく、昔だったらブートまがいとも言えるライブ盤だって堂々とリリースされるようになった。権利の切れた旧作の愛のない再発や、オリジナル・アルバムの安価すぎる5枚〜10枚パッケージに至ってはもう完全に食傷気味なくらいだ。JTレベルだと、コーラス参加作なども含めて、それこそ必死に1枚1枚集めて聴き入ったものだけれど、この13年でそれもやめてしまったな。さらにアメリカという国の置かれている状況も大分変わってしまった。



そんな風にいろいろ思いながら1曲目”Today Today Today”を聴いたら、なんだか久しぶりに安心したというか…慢性的な不安が消えたというか。



「なんとかぼくは死なずにすんだ 流れに乗ろうとしていた頃とおんなじ気持ちでいるんだ プライドを初めて売ったあの時と…」



「前進あるのみ ぼくの心は恐れるものなどなく自由だ ここにぼくの旗を立てよう トゥデイ トゥデイ トゥデイ…」



今日の現実世界やアメリカの時代状況の中で、67才のジェイムス・テイラーからこんなに前向きなメッセージが飛び出してくるとは思いもよらなかったものだから、何だかじーんと来るものがあった。



さらにタイトル曲”Before This World”(スティング、ヨーヨー・マが参加)は、キリスト教的な天地創造以前の世界(before this world)を想像したうえで、現実を乗り越えんとする祈りの歌であるように聞こえた。



「行く末がどうなるか 誰が想像できようか (迷える)子羊よ 気にすることはない」



「世界は古くなり いつまでも続かない われわれの喜びの取り分は 過去の一瞬にあるんだ」



様々な音楽批評家たちが、自分にとってのあるべき音楽を命がけで語る。それは悪いことではない。私の考える一流の音楽家の条件はというと、「いま」「ここ」にある「時代」というものを詩や音で真摯に描くことができる、ということだ。もっとも小説家だろうが学者だろうがそれは変わらない。大体突き詰めれば考えていることは同じだと思うから。そんな意味でもジェイムスは一級のソングライターなのだ、という思いを改めて強くした。



90年代の『Hourglass』に始まる、チェリスト、ヨー・ヨー・マとの共演はアパラチアン・ジャーニーのシリーズで聴いた頃まではフォークとクラシックの共演、という風にしか聴こえなかったけれど、よく考えてみるとフィドルの入ったカントリー・ミュージックのような郷愁を感じるアメリカーナの響きだし、ジェイムスも自身の音楽との相性の良さを感じていたのだろう。本作にもスティーヴ・ガッドやマイケル・ランドウ、ジミー・ジョンソンといった旧来の常連に加えて、フィドルアンドレア・ゾンがバンドに入っている。そんなわけで、現代のカントリー・ミュージックに近い音作りだと思う楽曲もあったり。ジェイムスの声は年齢のせいかハリがなくなって少しロウになったかな、と思った瞬間もあったけれど、聴き進めていけば不思議に昔と変わらない。楽曲も地味なようで、彼がこの作品を今ここで世に問うた理由がよくわかる。67才で枯れた創作意欲を蘇らせるには腰を据える必要があったのだろう。クリスマス・アルバムに単独ライブ盤(http://d.hatena.ne.jp/markrock/20080115)、カバー集(http://d.hatena.ne.jp/markrock/20081004)にキャロル・キングとの共演盤(http://d.hatena.ne.jp/markrock/20100524)と続いた彼がわざわざ新しい曲を作るために家族と離れてしばし環境を変えたという気持ちも良くわかった。

多くのアメリカ人にとっての”Far Afghanistan(遠いアフガニスタン)”は、日本人が中国や韓国を心理的に遠く思う気持ちと一緒だろうと思ったりもした(60〜70年代に活躍したアメリカのソングライターの多くがリベラルの立場からイラク戦争を批判したこともあったけれど、ムスリムを理解しようとしない状況は余りにも変わっていない)。そんな少々政治的なテーマも含めて、ジェイムスのアコギを目立たせたミックスといい、フォークの色彩の強いアルバムだと思えてきた。ボストン・レッドソックス賛歌”Angels Of Fenway”もフォーク的な語り物だったし、ラストのスコットランド民謡”Wild Mountain Thyme”(キャロライン、ヘンリーという妻・子の家族共演)もアメリカの移民のルーツを感じさせる意味でも象徴的な楽曲だった。さらに日本盤ボーナスには1999年のアウトテイクでウディ・ガスリーの”Pretty Boy Floyd”、ランブリン・ジャック・エリオットの十八番だった”Diamond Joe”を歌っていたり。(ちなみにもう1つのボーナス曲”I Can’t Help It (If I’m Still In Love With You)”はハンク・ウィリアムスのカバーで旧友ダニー・クーチとジェイムスが二人で演奏した2003年のアウトテイク。)先日今更ながら60年代初頭のグリニッジ・ビレッジを舞台にした映画インサイド・ルーウィン・デイヴィス』(モデルはデイヴ・ヴァン・ロンク!)を観たのだけれど、そんな気分とも個人的には繋がった。

(追記) ジェイムス・テイラーメーリングリストの記事を見ていたら、ビルボード初登場1位を記録したとのこと。11枚のアルバムがトップ10入りしている彼のキャリアにとってに意外にも初めてのアルバム・チャート1位であるらしい。