タイトル『青空』。良いですね〜。素晴らしくヒューマンなシンガー・ソングライター、リヴの新作。ジェイムス・テイラーの弟、なんて今更何をって感じですが。今作のジャケが2009年の前作『Last Alaska Moon』(http://d.hatena.ne.jp/markrock/20101224)や前々作2006年の『There You Are Again』 (http://d.hatena.ne.jp/markrock/20060331)に比べて安上がりになった感があって(メジャーを離れたからだろうけれど)、ジャケと中身は対応している場合が多いから(制作費は重要なのです)ちょっと心配したけれど、安定のテイラー・メイド。安心した。っていうか、最高傑作じゃないですか!
今作のプロデュースはナッシュビルのベテラン・ライター/シンガー/プロデューサーのマック・マクナリーが手掛けている。共同プロデュースのチャーリー・パスは若手ミュージシャンで、リヴが”ステージ・パフォーマンス”で教鞭を執るバークリーの生徒だったみたい(http://www.berkleegroove.com/2012/12/05/qa-with-berklees-own-viral-youtube-sensation-charlie-puth/)。
いつも楽しみなカバーの解釈は後述するとして、オリジナルの充実度にも目を見張るものがあった。チャーリー・パスと共作した冒頭の”Would You Mind”なんて、リヴの作風の良いとこ取り、みたいな。R&B、ジャズ、フォーク、ゴスペル…亜米利加音楽の絶妙なブレンド。タイトル曲の”Blue Sky”ではブルーグラス・ゴスペルとでも言えるイントロから、胸に迫るテイラー・メロディが飛び出す。兄ジェイムスもそうだけれど、アクースティック・ギターを抱えてもただのフォークにならないところが、素晴らしい。そんな、アメリカン・ミュージックの歴史や蓄積を感じさせる部分が、作品の奥行きに繋がっているのだろう。ちなみに、参加しているミュージシャンも素晴らしいけれど、リヴ本人もプレイヤーとして舌を巻く巧さだっていうことは、教則本や来日公演(今でも思い出すけれど、素晴らしかった…→http://d.hatena.ne.jp/markrock/20061215)で良くわかった。そしてそして、兄ジェイムスも1997年の『Hourglass』で取り上げていた”Boatman”の自演。アルバム前半からバッキング・ボーカルを務めていたチャーリー・パスと女性SSWのチェルシー・ベリー(http://www.chelseaberry.com/)にとうとう2番以降のリード・ボーカルを譲る、感動的な仕上がりとなっていた。30も40も年の違う二人を包み込むようなリヴの歌声が温かくって。他にもしっとりとしたピアノで聴かせる”Shouldn’t Have Fallen”もスタンダードの風合いで気に入った。
そして、カバーなんですが、嬉しかったのは最近1980年作のCD再発が話題のバリー・マン&シンシア・ワイルの”Here You Come Again”。個人的にはドリー・パートンよりも、B.J.トーマスのヴァージョンが大好きだったけれど、今回のリヴのヴァージョンもお気に入りに加わった。ジェリー・ダグラスのドブロを入れたのは、やっぱりこの曲にはカントリーのヒット曲、というイメージがあるからだろう。でも、耳コピしてみると判るけれど、転調に転調を繰り返す、ギターじゃあ作ろうと思っても作れない優れた一曲。じゃあピアノなら作れるのか、っていうと、そこがバリー・マンの傑出した才能なんですけどね。
あとはリヴのライブでは大サビ(ココのメロディ、サザンが”涙のキッス”で引用している)を観客に歌わせる、という定番、スティーヴン・ビショップの”On And On”は、ちゃんと大サビをリヴが歌っている。ライブでは、こんなの声でないよ!だから歌ってよ!ってな感じが面白いんだけれど、ちゃんと歌えてるじゃん、てのもファンにはめっぽう可笑しい。さらにローラ・ニーロの”Sweet Blindness”も見事にハマっているし、ハンドクラップ・スタイルのブラック・ミュージックの小粋なフィーリングでカバーした”Paperback Writer”も面白かった。ポピュラーではフレッド・アステア&ジンジャー・ロジャースの『スウィング・タイム』のために書かれた”Pick Youself Up”とラストのボーナス・トラックの扱いだけれどロジャース&ハマースタインの”I Have Dreamed”を。これらも暖炉でほっこり聴くようなイメージ。年配のアメリカ人だったら郷愁を感じるような…リヴの住んでいるボストン、私も大昔に住んでいたんですが、また帰りたいなぁ、とそんな気分にもなって。音楽って、本当に、良いものですね〜と水野晴郎さんじゃないけれど、聴き終えてそんな風に思えた一枚!