/ Still Within The Sound Of My Voice ( eone / 2013 )
大好きなミュージシャン、ソングライターの新作にリアルタイムで出会えるというのは嬉しいことだ。個人的には『Suspending Disbelief』(1993)(http://d.hatena.ne.jp/markrock/20100531)や『Ten Easy Pieces』(1994)にリアルタイムで出会い(まだ中学生だった…)、レコードだったら擦り切れるほど聴き続けてきたということもあり、今回の新作も格別の想いで受け止めている。『Suspending〜』に収録されていた”Elvis And Me”をエルヴィスのバックコーラスを担当していた本家ジョーダネイアーズと歌っていたり…あの頃、辞書を片手に歌詞を読みながら聴いていた曲だった。
さて、ジャクソン・ブラウンやグレン・キャンベル、ビリー・ジョエル、J.D.サウザー、リンダ・ロンシュタット(病気の報が悲しい)、マーク・ノップラー、ヴィンス・ギル、ウィリー・ネルソン、マイケル・マクドナルド…といった豪華ゲスト陣を迎えた2010年の『Just Across The River』(http://d.hatena.ne.jp/markrock/20100712)の続編とも言える、フレッド・モーリン・プロデュースのセルフカバー盤が本作『Still Within The Sound Of my Voice』だ。
今作もブライアン・ウィルソン、アート・ガーファンクル、ライル・ラヴェット、カーリー・サイモン、クロスビー&ナッシュ、ジョー・コッカー、マーク・コーン、アメリカ、クリス・クリストファーソン、エイミー・グラントからルーマー、キース・アーバンまでのゆかりの超豪華ゲストを迎えている。70年代にマシュー・マッコリーとのコンビでカナダ繋がりのダン・ヒルやバット・マグラスなんかを手がけていたフレッド・モーリンだが、近年はナッシュビルの大物プロデューサーになっている。ここ数年ではアメリカの『Back Pages』(http://d.hatena.ne.jp/markrock/20120721)やJ.D.サウザーの『Natural History』(http://d.hatena.ne.jp/markrock/20110611)、リタ・ウィルソンの『AM-FM』(http://d.hatena.ne.jp/markrock/20130202)などの好作を手がけている。ジミー・ウェッブというと日本ではソフト・ロックとして再評価された部分が強いけれど、アメリカではグレン・キャンベルのライターとしてのインパクトがやっぱり強い。そんなわけで、ジミーの楽曲にはポップ・カントリーの味付けがやはりう似合うという側面もある。フレッドは2010年にジョニー・マシスのナッシュビル盤のボーカル名作『LET IT BE ME-MATHIS IN NASHVILLE』(グラミーにノミネートされた)をプロデュースしていたけれど、そんな色の作。音像もクリアで。ジミー自身のピアノも"Shattered"だけだから、シンガー・ソングライター時代のリリカルなタッチを求める向きにはちょっと違う、と思うかもしれないけれど、個人的はゴージャスかつベストすぎるプロデュース・ワークだと思っている。
さて、今のところ5、6回聴き返しているけれど、前作よりもゲスト陣の色を薄くしているのが判る。つまりジミーのボーカルの割合を増やしているということ。うん、これだけでもパーソナルな風味が出てくる。大仰な前作よりも内省的なアルバムに聴こえてくるから不思議だ。ブライアン・ウィルソンがコーラスを担当した”MacArthur Park”なんて、リンダ・ロンシュタットの”Adios”の時みたいに、もっと前に出てくるのかと思いきや、そうでもない。実に奥ゆかしく、じっくり聴くと判る、という。それだけ、ジミーの歌を大切にした造りになっている。とはいえ、以前にも歌っていたジョー・コッカー自身が参加した“The Moon’s A Harsh Mistress”は流石に個性を押し殺しきれなかったか。いやいやもちろん納得の名唱だった。
あと、今回嬉しかったのはアート・ガーファンクルのニュー・レコーディング”Shatterd”が入っていたこと。いつかまた『Watermark』みたいなアートのジミー曲集を聴きたいというのはファンの夢かな。”Skywriter”もスタジオ録音で聴いてみたいもの。そうそう、アートと言えば『Angel Clare』に収録されていた”Another Lullaby”を今回クロスビー&ナッシュとの親交もあるマーク・コーンと歌っている。『Angel Clare』と言えば、当時のヴァン・モリソンの未発表曲”I Shall Sing”が収録されていたが、こちらは今年リリースされた名作『Moondance』のデラックス・エディションでヴァン自身のテイクが初お披露目となっている。
"Where's The Playground Susie"のセルフカバーも感動した。ジミー・ウェッブの初来日公演の初日で聴いた弾き語りヴァージョンが忘れられない。欲を言えば『Ten Easy Pieces』風の弾き語りアレンジでもう一度聴いてみたい気もするな。そういえば、来日公演では客席からのリクエストに応えて"Skywriter"を歌ってくれたのを覚えている。これが本当に凄かった。アート・ガーファンクルより歌えるんだぞ、ってなソングライターの本気が伝わってきて。二日目にもそんなファン心理を読んで自分から歌ったんだけど、一日目の迫力は無かった。やっぱりライブの魅力は一回性に尽きる。
そうそう、スタートに”Sleepin’ In The Daytime”という、ジミーのファンには余り評価がよろしくないロック調の楽曲を持ってきたのもジミーらしい(今回は”見張り塔からずっと”風で)。ロックにコンプレックスがあるからなのか、自身のアルバムにかならず不似合いなロックを1曲入れるという定石も崩さず(60年代にプロデュースしたテルマ・ヒューストンの『Sunshower』では掟破りにストーンズを直球カバーさせていた)。
1. "Sleepin' in the Daytime" (featuring Lyle Lovett)
2. "Easy for You to Say" (featuring Carly Simon)
3. "Elvis and Me" (featuring The Jordanaires)
4. "Where's the Playground, Susie?" (featuring Keith Urban)
5. "Still Within the Sound of My Voice" (featuring Rumer)
6. "If These Walls Could Speak" (featuring David Crosby and Graham Nash)
7. "The Moon's a Harsh Mistress" (featuring Joe Cocker)
8. "Another Lullaby" (featuring Marc Cohn)
9. "You Can't Treat the Wrong Man Right" (featuring Justin Currie)
10. "Rider from Nowhere" (featuring America)
11. "Honey Come Back" (featuring Kris Kristofferson)
12. "Adios" (featuring Amy Grant)
13. "MacArthur Park" (featuring Brian Wilson)
14. "Shattered" (featuring Art Garfunkel)
そのほかジミー関連で併せて紹介しておきたいのは2012年に蔵出しされたグレン・キャンベル&ジミー・ウェッブの共演ライブ『In Session』。1988年に録音されたモノ。CDと共にDVDも付いている。グレン&ジミーの共演は、これとは違うが日本で大昔ビデオ化されたものもあった。
あとはアルツハイマーをカミングアウトしたそのグレン・キャンベルの最終セッションのアウトテイク『See You There』も同時にリリースされている。ここにはジミーの手がけたヒット曲”Wichita Lineman”、”By The Time I Get To Phoenix”、”Galveston”に”Postcard From Paris”の新録を含んでいる。ミュージシャンとしての生命はいつか途絶えるものだと知ってはいるけれど、涙無しでは聴けないでしょう。