/ 限りなく透明に近いブルー ( Kitty / 1979)
ダブル村上、などと言われた時代もあったけれど、いまは村上春樹ばかりでちょっとそれも嫌になる。村上春樹という人は希有な視野と発言力を持った作家であり、ある種の思想を持った素晴らしい人だな、と発言などを聞く度思うんだけれど、なぜあんなに文体が軽いのか。恥ずかしながら、今の今までピンと来たことが一度もない。80年代的消費文化への対抗心なのかな、60年代や70年代から離れられなかった村上龍の方がピンと来るものがあって肩入れしてしまう自分がいる。社会へのむき出しの対抗心みたいなものを無くした今の日本が嫌なのかな。同じ学生運動を扱っても、春樹はクール、龍はホットというイメージ。現代という時代はクールを好むんだけど、もっとホットなものがあってもいいんじゃないかな、と思うのだ。
そんな気分とは関係ないけれど、村上龍の代表作のサントラ『限りなく透明に近いブルー』をさいきん入手。数年前に買い逃して以来狙っていた。映画の方はあまり当たらなかったみたいだけれど、60年代の洋楽曲を大物ミュージシャンがカバーしている(本盤のみ収録)というのが魅力。本当はオリジナル・シンガーのテイクを使いたかったんだろうけれど、権利上無理だし、どうせなら、そうした60年代の音楽の影響を受けてきた日本のアーティストに歌わせよう、みたいな企画じゃないかと想像する。
ビートルズ、という印象のある井上陽水のS&Gカバーも面白い。”Homeward Bound”と”Cloudy”を。意外と端正なボーカルを聴かせていて、アンドレ・カンドレ時代の陽水みたいで面白かった。ソニー移籍前、キティ時代の上田正樹は”When A Man Loves A Woman”を。山下達郎のサンデー・ソングブックでも使われているラスカルズの”Groovin’”はレコードのテイクとは違う珍しいもの。元ビーバーズの瀬川洋はラヴィン・スプーンフルの”You Didn’t Have To be So Nice”を。スプーンフルといえば上田正樹の相棒・有山淳司が”Daydream”を演っていたり。小椋佳は流暢な英語で”(What A)Wonderful World”と”Love Me Tender”を。コレは小椋佳とは思えない仕上がり(失礼!)でとても良い。村上龍が歌詞を書いたオリジナルも2曲(カルメン・マキの”青白い夕焼け”(”リュウ”のテーマ)とアレックス・イーズリーの”Queen Of The Eastern Blues”)。”青白い夕焼け”(”リュウ”のテーマ)はOZの春日博文曲だった。
バッキングはロバート・ブリル、上原裕、西哲也、田中章弘、高橋ゲタ夫、小原礼、大村憲司、春日博文、山岸潤史、永井充夫、安田裕美、石川鷹彦、有山淳司、永田和承、難波弘之、中西康晴、星勝…などなどといった腕利きばかり。
CDも存在するようだけれど、プレミア化しているみたい。LPで十分。映画の方は正直、小説の混沌を思うと、そこまで観たくもないかな…